本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION
「7日以内にクリアしないと死ぬ」。実しやかに囁かれる、出所の分からない呪いのゲームの噂。いつの間にかスマホにインストールされているそのゲームアプリは、犠牲となった者のスマホから、次の犠牲者のスマホへと転送され、伝染していくと言う。
突然探索者のスマホに現れた見覚えのないアプリ。アイコンに表示されているアプリ名は「呪いのゲーム」。タイムリミットは7日後。ゲームに秘められた呪いの真実とは。
果たして探索者は、無事ゲームをクリアして生き延びることができるのか。
舞台:現代日本
推奨人数:2~4人
シナリオ傾向:シティ・謎解き・ロストあり
想定時間:ボイスオンセで8時間前後
推奨技能:目星、図書館、オカルト
準推奨技能:医学、コンピューター
共通HO:探索者達はとある共通の大学の生徒であり、
同じ大学の生徒である NPC伊勢 秀人(いせ ひでと)と親しい友人である。
探索者同士の面識や、伊勢秀人との交友関係のきっかけは自由。
また、スマートフォンの所持を必須条件とする。
※同名のホラーゲーム「ナナシノゲエム 目」をオマージュしたシナリオとなっていますが、現象の詳細設定や話の真相は全く異なるものとなっております。ゲームをプレイしたことがなくても問題なく本シナリオをお楽しみ頂けますし、本シナリオをプレイしてもゲームのネタバレは一切御座いません。
――――――――これより下はKP向け情報となります――――――――
シナリオ本文
あとがき
NPCのステータス及び敵出現時の描写、地図などの提示資料、重要語句に関する提示情報などについては、別途「資料」としてまとめてあります。シナリオを回す際には此方もご参照ください。⇒ナナシノゲエム:資料ページへ
とあるゲームプログラマーが作ったホラーゲームに、モチーフとして取り上げた曰くつきの廃村にまつわる本物の「呪い」が憑りついてしまい、人を呪い殺す「呪いのゲーム」へと変貌してしまった。ゲームの完成前にプログラマーは呪いによって死亡し、不完全な状態の「呪いのゲーム」が世に広まってしまう。「呪いのゲーム」はクリアできなかったプレイヤー達を呪いによって自殺へと導き、犠牲者のスマホから新たな犠牲者のスマホへと配信され続けていた。
探索者達の共通の友人がこの「呪いのゲーム」の配信を受け呪いにより死亡、次なる犠牲者として探索者達のスマホにも「呪いのゲーム」が配信されてくる。未完成で普通にプレイしても先に進むことの出来ないゲームをクリアする為には、ゲームのデータとモチーフとなった廃村が融合したゲームの中の世界で探索者達自身がゲームを攻略する必要がある。
現実の世界とゲーム内の異空間を昼夜行き来しつつ、7日以内にゲームを進めて呪いに終止符を打つ事がシナリオの目的となる。
※本シナリオは「呪い」というホラーの普遍的なモチーフを独自解釈の下扱っております。本シナリオの真相には神話的事実は関与しておらず、神話生物は登場しません。ご了承ください。
大まかな目的:「カオナシのパーツ」を集めてゲームを進め、呪いに杭を打ち消滅させる
※夜になると探索者達は呪いのゲームの内部の世界、「ゲーム世界」に意識を転移される。この空間はゲームの題材とされた、呪いの根源である烏須目木村の形を呈している。未完成で進められないゲームを攻略する為には、ゲーム内で行えない事を夜の「ゲーム世界」で代わりに進めていく必要がある。
昼は現実世界で情報収集、夜はゲーム世界で「カオナシのパーツ」を集めてゲームを進行させていく、というのが主な流れとなる。
●1日目昼 伊勢秀人が自殺
探索者達に不審な男子生徒(苗代)が接触してくる
探索者達のスマホに「呪いのゲーム」が配信されてくる
●1日目夜 眠りに就くと同時にゲーム世界へ移動
ゲーム世界内で苗代と初接触、以後同行することに
●2日目昼 苗代から栄と呪いのゲームの関係性を説明される
現実世界での探索(伊勢のアパート、栄自宅、烏須目木村など)
●2日目夜 探索者の内1名が忌み子に襲われ「感染」する
以後、昼は現実世界を歩き回り呪いに関する情報収集、夜はゲーム世界で「カオナシのパーツ」を集めて堂に納めていく。ただし、最後のパーツである頭だけは現実世界の烏須目木村に存在する為、栄宅で烏須目木村に関する情報を掴んだ後、烏須目木村に赴いて頭蓋骨を堂に納める必要がある。
●全てのパーツを集め終えると…
夜、「ゲーム世界」の堂に呪いの根源が忌み子の姿をとって現れる。この呪いの正体は村人の怨念が変容したものだが、哀れな忌み子の姿を装って自分を繋ぎ止めている杭を探索者に抜かせようとする。
⇒杭を抜く:呪いがゲームの枠組みを超えて世に放たれる BADEND
⇒杭を打つ:呪いに終止符を打ち、呪いのゲームを消滅させる GOODEND
「呪いのゲーム」の正体はゲームプログラマーである栄 晴久(さかえ はるひさ)が趣味で作り始めたスマホゲームアプリである。栄はホラーゲームを作るにあたって、実在する廃村である烏須目木(うずめぎ)村をモチーフにした。過去に陰惨な事件を起こした烏須目木村を題材にゲームを作った結果、そのゲームアプリに本物の「呪い」が宿ってしまった。呪いによって栄は突然死、アプリは未完成のままとなるが、この未完成のアプリを元に呪いが同化して出来た「呪いのゲーム」が、電脳の海を渡って世に放たれる事となってしまった。
烏須目木村は50年以上前に廃村になった村で、独自の信仰と仲間意識が強固な閉鎖的集落であった。この村で三重苦の障害児が生まれた際に村人たちはそれを邪神の祟りと恐れ、「忌み子」と称し村全体で迫害した末に七歳になった年に神の怒りを鎮める生贄として殺してしまう。その翌年に村に疫病が大流行し、村人は一人残らず死亡、廃村となっている。この事件から一部のオカルト好きの界隈では名の知れたオカルトスポットで、栄もこの点に目を付けてゲームのモチーフとした。
烏須目木村の呪いとは、疫病で苦しみ、それが忌み子の祟りであるに違いないと最期まで恐れ慄きながら死んでいった村人たちの無念の思いの集合体である。この世に未練を残して、不条理な死を呪いながら息絶えた村人たちの思いが呪いとなり、純粋な悪意となってゲームに宿ってしまった。結果、ゲームはプレイした者の精神を蝕み、自殺という形で死へと導く呪いのゲームとなった。
この呪いのゲームは犠牲者を死へ追いやっては犠牲者のスマホに登録されていたアドレスから次の犠牲者達へ、そこからまた次の犠牲者たちへ、と伝わっていった。そうして辿り着いた犠牲者の一人が、探索者達の友人である伊勢 秀人(いせ ひでと)である。伊勢は噂を思い出し不安に駆られながらも呪いのゲームをプレイするが、あと一歩のところで7日のタイムリミットを迎え、アパートの自室で首を吊って自殺してしまう。そして次の犠牲者として、伊勢のスマホから呪いのゲームが伝染した先が探索者達である。
また、栄の甥である苗代 宗史(なえしろ そうじ)は探索者達と同じ大学に通う大学生で生粋のオカルトマニアであった。苗代は親しくしていた叔父が廃村を題材にゲームを作っていた事を知っており、叔父の突然死について元々不審に思っていた。呪いのゲームの噂が出た時点で、栄の作ったゲームとの関係性を疑って呪いのゲームについて調べて回り、犠牲者が出る事を防ぐ目的で呪いのゲームの伝染先について個人的に調査を始める。その結果伊勢へと呪いのゲームが伝染したらしいという事を突き止める。しかし既に伊勢を救うには時間が足りなかった為、次の犠牲者になり得る伊勢の親しい友人の元を回り、そこから自分のスマホへと呪いのゲームを自ら伝染させ、探索者達と共に呪いのゲームのクリア、そして呪いの解消を目指す。
シナリオの目的は、未完成でクリアできないゲームをクリアすべくその背後にある廃村の呪いを突き止め、ゲームに巣食う呪いに楔を打ち込み消滅させる事である。
このシナリオは、現実世界とゲーム世界を昼と夜で交互に探索していく半シティ半クローズド型のシナリオです。探索者達は日中は現実世界で様々な場所を探索し情報を集め、夜はゲーム世界へ意識を移し、集めた情報を元に行動していく事になります。
また、ゲーム世界では一部の探索者のみが「感染」という特殊な状態になり、他の探索者と異なる情報を得たり、恐ろしい経験をしたりする事になります。この「感染」の状態はシナリオのクライマックスの展開にも大きく関わり、KPは常にこの「感染」の度合いを示すポイントをシークレットで管理し続けることになります。
非公開の数値の管理、時間経過の管理など、同時に処理する必要のあるシークレット要素が複数あるため、キーパリング難易度は高めです。管理が難しい際には、それらの処理をご自身がやりやすい形に簡略化する事をお勧め致します。
伊勢 秀人(いせ ひでと) 犠牲となった大学生
性別:男 年齢:任意 職業:大学生(学科は任意)
STR12 CON15 POW15 DEX12 APP12
SIZ16 INT12 EDU12
※シナリオ開始時点死亡
探索者達の共通の大学の友人。学年や学科、所属サークルなどは探索者に合わせて決定する。性格は明朗快活で、人懐っこく誰とでもすぐ仲良くなれる外交的な男。
前の犠牲者となった学外の友人から呪いのゲームを受け取る。アパートの自室に籠ってゲームのクリアを目指し、一週間ほど前から大学にも姿を見せていなかった。伊勢がゲームを受信した丁度一週間前の頃、探索者達は伊勢が親しい友人の急な自殺にショックを受けていた事を知っている。
苗代 宗史(なえしろ そうじ) 怪しげなオカルトマニア
性別:男 年齢:任意 職業:大学生(学科は任意)
STR10 CON7 POW9 DEX9 APP8
SIZ12 INT15 EDU15
SAN:45 HP:10 MP:9
アイデア75 知識75 幸運45
医学50 オカルト75 回避48 聞き耳55 コンピューター56
心理学80 精神分析56 図書館65 目星75
心理学を学ぶ大学生。オカルト研究会所属の極度のオカルトマニアで、愛想の良くない暗い風貌もそれを匂わせる。
ゲームプログラマーの栄 晴久の甥であり、自分のオカルト趣味に理解を示してくれる叔父に懐いていた。栄がそれまでと趣向を変えてホラーゲームを制作し始めたのは苗代の話を聞いて興味を持った事が発端であり、苗代は栄が望まぬ呪いのゲームを生み出してしまい、命を落とした事を自分の責任であると感じている。ひいては呪いのゲームが蔓延してしまっている事にも自責の念を感じており、犠牲者を助ける為には危険を厭わず呪いの噂に身を投じる。
以上の理由から呪いのゲームについて個人的に調べ、また、これが単なる都市伝説ではなく実害を持つ呪いであると考える。大学内での不審死が起きてからその周辺を調べており、伊勢が呪いのゲームを受信した事を突き止めるが、伊勢を救うには一足遅かった。その後、伊勢の親しい友人である探索者達に次の配信が来ると考え、打開策を講じるべく探索者達に接触する。
栄 晴久(さかえ はるひさ) 発端のゲームプログラマー
性別:男 年齢:36 職業:ゲームプログラマー
STR12 CON11 POW12 DEX14 APP10 SIZ13 INT14 EDU16
※シナリオ開始時点死亡
苗代の叔父。非常に純心にゲームを愛するゲームプログラマーで、会社に勤める傍ら、趣味で個人的なゲーム作成、プログラム開発なども行っていた。個人で作成したゲームの中にはスマホアプリゲームも含まれている。特に好きなジャンルはレトロゲーで、作品もその手の内容が多い。
苗代に勧められてオカルト的な話に触れ、シナリオ開始の数か月前に新作としてホラー風味のゲームの作成に乗り出す。リアリティの為に実在のオカルト話として烏須目木村をモチーフにした結果、実在していた呪いをゲームに取り込んでしまい、シナリオ開始の1か月程前、呪いに取り殺されて自宅で突然死という形で命を落とした。
◆敵性NPC
忌み子(いみご) 悪しき風習の犠牲者
STR10 CON63 DEX11 SIZ7 HP:35
装甲:なし。ただしあらゆるダメージは1に軽減される。
目撃による【SANチェック】1D3/1D6
攻撃技能などは持っていない。ただし遭遇時には回避不能イベントとして、ランダムな未感染の探索者一名に接触しLv1の感染状態にする。その後自発的に退散する為戦闘にはならない。既に全員が感染状態の場合には全員に接触を行い感染ポイントを50ポイント上昇させた後退散する。
かつて烏須目木村で呪われた子と恐れられ、迫害の末に村人達の手で殺された子供。7歳の子の姿を象った赤黒い肉塊の化け物。ただしこの敵性NPCは姿は忌み子を模しているものの、本物のそれではなく村人たちの想像を元に形作られた「恐ろしい忌み子」の姿をした「呪い」に過ぎない。
村人 失われた村の呪われた住人達
STR15 CON10 DEX8 SIZ13 HP:12 DB:1D4
以下の武器のいずれかをランダムに一つ持っている。
手斧・小鎌 20% ダメージ1D6+1+DB
肉切り包丁 25% ダメージ1D6+DB
小刀 25% ダメージ1D4+DB
鉈 20% ダメージ1D8+DB
※村人の武器による攻撃を受けるか、肉弾攻撃によって接触した場合は感染ポイントが50ポイント上昇。
目撃による【SANチェック】1D3/1D6
かつての烏須目木村の村人の怨念の姿を象った化け物。最も危険度の低い敵性NPC。逃走も容易、攻撃の命中も低く、強力な敵ではない。ただし肉弾攻撃を喰らうか、村人側が攻撃を喰らわせるなどで探索者と接触した際には感染ポイントの蓄積が発生する。
呪い 邪と負の思念の集約
STR15 CON10 DEX11 SIZ22 HP:16
装甲:なし。ただしあらゆるダメージは1に軽減される。
腐食 80% ダメージ1D3
※腐食攻撃を受けるか、肉弾攻撃によって接触した場合は感染ポイントが50ポイント上昇。
目撃による【SANチェック】1/1D4
定形を伴わないどす黒い半液体状の化け物。烏須目木村の村人達の怨念が長い年月を経て凝り固まり、純粋な呪いと化したもの。触れた部分から生者の肉を腐食させる攻撃を行う。
ルグレ 呪いと化した思念の残滓
伊勢のルグレ STR12 CON15 DEX7 SIZ16 HP:16
苗代のルグレ STR10 CON7 DEX9 SIZ12 HP:10
装甲:なし。ただしあらゆるダメージは1に軽減される。
侵食 40% SAN減少1D3
※侵食攻撃を受けるか、肉弾攻撃によって接触した場合は感染ポイントが50ポイント上昇。
目撃による【SANチェック】1/1D4
ゲームの犠牲者の精神が呪いと同化した成れの果ての化け物。犠牲者の生前の姿を象った亡霊の様な姿をしている。その者の思念の残滓が残る自殺現場の近くに現れ、現在進行形でゲームをプレイしている者を自分達の側へ取り込もうと襲って来る。倒したとしても夜の間にその場を訪れれば何度でも再出現する。
シナリオ本文の読み方
・地の文…KP向けの状況説明および処理に関する記述など、シナリオ本文のメイン部分です。適宜目を通しながら進行してください。
・読み上げ文…情景描写の文章、もしくは文章媒体での情報の内容です。この文章はそのままPLへ向けて読み上げ・提示を行って構いません。
・ダイスロール文…SANチェック及び各技能などの処理です。技能のダイスロールについては、”※強制”の記述がない場合振れる技能の提案の有無などはKPにお任せします。
物語の導入はある平日、探索者達が大学に来て最初の講義を待っている広義前の教室で行われる。何時限目かは問わない。
※探索者達に面識がある場合でも、導入は個別に行った方が好ましい。
ただし内容は同じものの繰り返しになるので、イベントとして強制描写で進めてしまった方がKPもPLも面倒がないかと思われる。
貴方は講義前の時間、教室の席に座っている。すると不意に一人の男が近づいて来る。男にしては長めの黒髪、眼鏡の奥の瞳は暗く、あまり眠っていないのか、薄黒いくまがはっきりと見てとれる。
【アイデア】彼を見た事がある。大学内でも異様な雰囲気で知られているオカルト研究会に所属している筋金入りのオカルトマニアだ。個人的な面識はない。
(ただし探索者が心理学科で苗代と同学年の3年である場合は、名前を知っている。)
男は貴方に歩み寄るなり、小さく口元に笑みを作ってこう話しかけて来る。
「……君、○○君だよね。伊勢君と仲良かったでしょ。ちょっと、携帯貸して」
そう言うなり男は机に置いてあった貴方のスマートフォンを掴み、ポケットから取り出した自分のそれと貴方のものを両手に持って何事か操作を始める。良く見ればコードのようなもので2台のスマホを繋ぎ、自分のスマホの画面を操作しているようだ。あまりに突然の事で、貴方が止める間もなくその操作は完了される。ほんの十秒もしない内に、彼はコードを抜くと自分のスマホをしまい、貴方にもスマホを返すと「ありがと」とだけ短く言って踵を返してしまう。
この時、苗代は探索者達のスマホに呪いのゲームが配信される事を予想し、それを確認、配信されていたゲームを自作のシステムを用いて自分のスマホに吸い出している。こうする事で、元の配信先である探索者が呪いから逃れる可能性を考えての行動である。
この行動は導入のための必須イベントなので、描写として多少強引にでも進めてしまうこと。PLが抵抗を試みてどうしてもうまく進行できそうにない場合は、必要なイベントであることをぶっちゃけてしまっても構わない。また、操作自体を防ぐことはできないが、立ち去ろうとする苗代に何か声を掛けたり抗議をする事は探索者の自由である。この時点で問い詰めたりしても苗代は何も言わず、足早に立ち去ってしまう。場合によっては、突然理不尽な行為を働いた苗代への不信感や反感を煽るように演出しても良い。
その後程なくして教室へやってきた同級生達の様子がおかしい。何人かが固まって話し合い、ざわめいている。
【聞き耳】「伊勢君が…」「嘘、マジで」「え、それって噂の……」と言ったやりとりが聞こえてくる。
直接話を聞けば、伊勢秀人が昨日一人暮らしのアパートの自室で自殺したらしいと言う話を教えてくれる。伝聞の噂に過ぎず、そこに居る生徒達は誰も直接見たわけではなく、詳しい状況なども分からない。探索者は伊勢秀人が自殺などしそうにない明るい人物であったと知っているが、同時に、一週間前に親しい友人の突然の自殺を受けて酷く意気消沈しており、その辺りから学校に来ておらず家に籠りきりであったという事も知っている。
親しい友人の死の知らせに【SANチェック】1/1D2
導入以降に探索者がスマホを確認すると、いつの間にか覚えのないアプリがインストールされている。そのアプリ名は「呪いのゲーム」。
【アイデア】最近、その名前のゲームアプリが都市伝説的な噂として騒がれている事を思い出す。
【オカルト】その内容は以下の通りである。
「いつの間にか配信されてくるゲームで、7日以内にクリアしないと死ぬらしい」
「死ぬと言っても、殺されるのではなく、自殺してしまうのだという」
オカルトで得られる情報については、ネットで調べるなどの方法で得ることが出来る。それ以上の詳細なゲームの情報は調べても出てこない。
探索者がアプリを起動する場合、以下の処理が発生する。ただしゲームを起動しないまま後述の「ゲーム世界」を先に経験した場合、オープニングの演出はなく二回目以降の起動の描写のみを行うこと。
アプリを起動すると、殺風景な真っ黒い画面に表示される「はじめから」の文字。ゲームタイトルなどの表示はなく、その5文字だけが寂しく浮かび上がっている。それをタップするとピ、と小気味よい音の後、ゲームが開始される。
画面が暗転した後、オープニングらしき映像が流れ、イベントが流れ始めた。それは最新のスマホゲームとは程遠い、まるで、ファミコン時代の古典的RPGを思わせるドットによる2Dの映像だった。そういった懐かしさを感じさせる為の演出なのだろうか。味気ないドットによる2頭身のキャラクターが画面を動きまわり、ピコピコと耳に響く8bitの粗末な音楽が流れ始める。ちゃちな演出の中、画面に文字が表示される。
「かくして ゆうしゃ○○(探索者の名前)は まおうののろいをとくたびへ でるのだった!」
そこに表示された名前は、間違えようもない、貴方の名前だった。
ゲームをプレイするのであれば、「はじまりのまち」と銘打たれた町のマップから冒険が開始する。ファミコン時代のドラクエなどのマップを想像してもらうと分かりやすいだろう。しかし町の外に出るには通行人が邪魔をして通してくれず、いくらプレイしてもそれをどかす方法は見つからない。
ゲーム内のマップで教会に行けば、女の子のNPCが以下のメッセージを話す。
「しさいさまが おいのりするのに ひつようなんだ。 カオナシのパーツ あつめて」
また、町中にいる男の子のNPCが以下のメッセージを話す。
「パーティは いちどくんだら ずっといっしょだよ!」
元となった栄のゲームでは、「カオナシのパーツ」を集めて教会に届ける事で邪魔な通行人が退き、町から出発できるようになる予定だった。しかしそこまでゲームを作る前に製作者の栄が亡くなっている為、ゲームデータ内には必要なフラグ、カオナシのパーツなどは用意されていない。この未完成なゲームを進行させるには、後述する「ゲーム世界」でカオナシのパーツを集めていく必要がある。
1日目は伊勢のアパートにも警察がおり立ち入り禁止となっている為、探索できる場所は殆どない。早い段階で苗代宗史の名前が割れていた場合、探索者は苗代とコンタクトを取る為に大学のオカルト研究会に足を運ぶかもしれない。オカルト研究会の部室についてはシナリオ上重要な場所ではない為描写を割愛するが、学内でも話題になる様な不気味なサークルの部室として描写すれば良い。オカルト研究会の部室に行けば苗代の連絡先を教えてもらえるかもしれないが、メールや電話をしたとしても初日に苗代とコンタクトを取ることはできない。
夜になり眠りに就くと、探索者達は呪いのゲームの内部世界へと迷い込む事になる。もし夜の0時を過ぎても就寝しない探索者が居た場合は、0時になると異常な眠気に襲われて意識を失ってしまう。また、夜8時以降に呪いのゲームを起動した場合も、その瞬間に意識を失い、ゲーム世界へと移行する。
初日のこの処理は一人ずつ個別のタイミングになるが、2日目以降は誰か一人がゲーム世界に移動した時点で、他の探索者も意識を失いゲーム世界へと移動する。これは初日の夜の時点で探索者達+苗代が一つのパーティとみなされる為である。また、ベッド以外で意識を失った場合でも、探索者達は無意識に就寝までの行動を取る為、朝目が覚めた際には問題なく自分のベッドで寝ている。
気付けば貴方達は、見知らぬ風景の中にいる。
辺りには木々が茂っており、そこが自分達の良く知る都会とはかけ離れていると分かる。背後を振り返れば、深い森になっていた。その先はただ暗い、という以上に、深く、黒く感じる。その先へ進めば、もう戻れないのではないかと本能が囁いている。
不気味な暗闇から視線を背け目の前の方向に向き直ると、そちらは木々が開けており、ちらほらと家屋が見える。どうやらその様子は、村という言葉がふさわしい様に思えた。
※強制【目星】村の奥に人影が見える。それが今朝、自分達に接触してきた男だと分かる。
この「ゲーム世界」はゲームの内部と融合した仮想空間であり、実在する烏須目木村の地理と一致する村の形をしている。⇒資料:ゲーム世界の地図を参照
少し距離があった為追いかけても苗代を見失ってしまうが、追いかけて村に踏み込むと苗代の方から探索者達に気付き、すぐに向こうから声を掛けてくる。
「……此処にいると危ないよ」
いつの間にか探索者達の近くに立っていた苗代が短くそう言い、来て、と言って手近な民家へと誘導する。
既にゲームの呪いに触れ、それらの存在を感知できる状態にある苗代は、探索者達の居る場所に危険が迫っている事を察知した為、安全な場所へと先導する。
空き家に入って安全を確保すると、苗代は一息ついた様子で改めて探索者達と対面する。
【目星】左目がわずかに充血している。
何が危ないのかと訊かれれば「何だろう…何か、異質なもの。とにかく、触れてはならないものだよ」と正体は分からないがそれがゲームの呪いであるなどと証言し、何故分かるのかと言われれば「さあ……聴こえたんだ、近付いて来るのが」などと不明瞭に答える。
その後苗代は質問されれば素直に答え、そして巻き込まれた探索者達を見てやはり呪い自体の回避は不可能だったのだと判断、その時点で知っている情報は訊かれれば開示する。朝の大学での行動についても「君達のスマホから呪いのゲームを取り除けるかと思って試した」と答え、探索者達を助ける為に協力する意図を示す。ゲームと叔父の関係や、そこまで積極的に事件に介入する理由などについては確信がない事もありこの時点で語ることはない。しかしながら、「助ける為に協力する」という意志は示す。
また、苗代は一枚の紙を取り出し、
「歩き回って、簡単にマッピングしてみたんだ。紙と筆は、此処にあるものから借りた」
などと説明する。それはその言葉の通り、苗代がその場にあったもので手書きしたこの村の地図である。⇒資料:ゲーム世界の地図(PL用)を提示
以後、後述するゲーム世界での探索の基本事項を踏まえて探索開始となる。
★ゲーム世界での探索ルール
・ゲーム世界での探索は一夜につき2時間となる。KPは適宜、行動内容に相応しい時間経過をシークレットで管理すること。
・2時間が経過するとその場で意識を失い、翌日の朝になり現実世界で目覚める。翌日の夜には前夜に意識を失った地点から続きの探索を行うことになる。
★遭遇ルール
30分ごとにシークレットダイスを振って、以下のルールに従って敵と遭遇する。各敵のステータス及び描写については本ページの主要NPCの項目、または資料:NPC情報を参照。
01~30 遭遇なし
31~60 村人1D3人
61~85 呪い
86~00 忌み子
また、『井戸』『堂』『小屋』の付近であった場合には確定で忌み子が出現する。
遭遇確定した時点で、感染している探索者にダイスを振らせる。これはシークレットの【聞き耳】判定で、感染による技能マイナス抜きで判定を行う。成功した場合、ひたひたと、にじり寄る気配を感じる。すぐにその場を離れるか、隠れる選択をした場合、遭遇をやり過ごす事が出来る。
★「感染」状態について
忌み子の攻撃を受けた探索者は「感染」の状態になり、以後ポイントの蓄積に比例して症状が進行し続ける。また、苗代は最初に探索者と合流した時点でLv1の感染状態なので、それ以降行動に伴ってポイントを加算させること。
ポイント蓄積の仕組み
・ゲーム世界での探索1分につき1ポイント上昇する。一夜で120ポイントの蓄積となる。
・敵に攻撃を受けた場合には一度につき50ポイント上昇する。
・ゲーム世界内で正気度が削れた場合、正気度1ポイントにつき10ポイント上昇する。
感染状態の探索者には様々な不快な体験、身体・精神的な症状、それに伴うマイナスボーナスが生じる。それに加えて、ゲーム世界の探索中の随所で【感染チェック】と呼ばれるロールを求められることがあり、感染状態の者のみ得られる情報がある。これは、感染状態の者が呪いとより近い状態にある為、呪いの在処に関わる情報を感知できる事を示している。よって、【感染チェック】で情報を発見できる確率は、感染状態が進行するにつれて上がっていく。
●感染状態の進行表
《Lv1 不安感・吐き気》0ポイント~
<到達時の描写文>
貴方は背筋の凍る様な悪寒を感じる。
異常な状況のせいだろうか。いや、それだけではない。何かが、恐ろしい何かが、貴方の身体と心を、少しずつ蝕んでくる様な感覚。小さな蛆虫が死体に群がる様に、おぞましい何かが、自分に群がり、端から少しずつ、ぱりぱりと齧るように、ずるずると啜るように、貴方を取り込み、貴方もそれを取り込んでゆく感覚―――
やがてそのおぞましい闇は貴方を完全に飲み込んで、貴方の存在はおぞましい黒と鮮やかな赤に塗り潰される―――
そんな、気がした。
【SANチェック】0/1D3
目は充血するが、自分では違和感に気付けない。他の人は注目して見る事で気付く事ができる。【感染チェック】の数値はPOW×5。
《Lv2 幻聴》150ポイント~
<到達時の描写文>
音がする。
否、それは音楽だ。チープな電子音が奏でる、勇者のための音楽。
それは、あのゲームの画面から流れたものだった。その妙に耳に残る単調なメロディが、貴方の耳に響く。
何処から聴こえて来るのかは分からない。ただ、その音楽はいつまでもいつまでも単調にループして、貴方の聴覚を満たし続ける。
【SANチェック】0/1D3
以降聞き耳技能に-15、その他一般技能に-5。
目がはっきりと真っ赤に充血する。熱を持ち、ぴりぴりと痛みを訴える。【感染チェック】の数値はPOW×4。
《Lv3 幻覚》300ポイント~
<到達時の描写文>
貴方は目を疑った。
視線をやった先の地面が、真っ赤に染まっている。それは紛れもなく、人間の血だった。
その赤い池の中に、何かが蹲っている。
それはかろうじて、人間の形をしていた。全身を赤く染めて、その身体は至る所が千切れ、肌の隙間からは赤い肉と白い骨が覗いている。生々しい傷からは未だに赤黒い血がどくどくと流れていた。
頭蓋と思しき部分から力なく地面へと垂れさがる黒い髪。長いそれは血を吸い重力に従ってだらりと地面に落ちてそこで赤黒く蟠っていた。
その頭髪の根元、頭蓋は、石榴の様に割れている。中から脳を覗かせながら、血を滴らせる。
不意に、その下にあるぐずぐずに崩れた顔が、視界に入った。
肉が削げた様に醜く崩れて血と脂肪、赤と白を混じらせるその顔の中で、唯一綺麗なまま残っていた片目が、ぎょろりと貴方の方を向く。
その目は、赤く、赤く血走って、怒りか恨みか憎しみか、恐ろしい色を抱いて貴方を睨む。
そんな恐ろしい形相に、悲鳴を上げかけ、そして、
―――――ふと気づく。そこには何もいなかった。
【SANチェック】1/1D3
以降、聴こえているゲーム音楽がバグの様相を来たす。聞き耳技能に-20、その他一般技能に-10。目星ロール時、【感染チェック】に失敗する数値だった場合おぞましい幻覚を見てしまい【SANチェック】0/1。
目は白目まで完全に赤黒く染まり、其れが最早ただの充血ではないと分かる。どろりと瞳は濁ったようだ。熱を持ち、じくじくと痛み、まるで眼球がとろけてしまいそうだ。
【感染チェック】の数値はPOW×3。
《Lv4 直接的な映像》450ポイント~
<到達時の描写文>なし。到達時点で探索者の自覚し得る大きな変化はない。
ずっと聴こえ続けていた音楽がいよいよ激しくひび割れて、耳に酷い不快感と恐怖をもたらす。以降聞き耳技能に-20、その他一般技能に-15。
目の痛みは一向に引かないどころか、熱も合わせてどんどん酷くなる。見れば、目の周りの皮膚が焼けただれた様に赤黒く変色していた。
【感染チェック】の数値はPOW×2。
《Lv5 失聴》600ポイント~
<到達時の描写文>
左目の痛みと熱が益々酷くなる。じわじわと、広がる様な感覚は、最早目を通して貴方の脳までも溶かしてしまいそうな程だった。
そんな苦痛に耐えながらも気力で活動を続けていた貴方に、それは突然訪れた。
ぷつり。
ラジオのスイッチを切る様な、そんな感覚。
不意に、辺りが静まり返る。人の声も、風の音も、僅かな衣擦れや息遣いさえも。
絶えず耳元で鳴っていたあの歪なゲーム音楽もぴたりと止んだ。
完全な無音。
貴方はすぐに気付くだろう。
音が静まったのではない。
―――――耳が、聴こえないのだ。
以降聞き耳技能使用不可、その他一般技能に-20。
左目の様子は変わらず、むしろ悪化している。すっかり元の色を失って赤黒く染まった白目、瞳はどろりとして虚ろな視線で前を見つめる。周囲の皮膚は醜く爛れて、最早顔の左半分が酷いやけどの様になっていた。触れれば、それが老婆の皮膚の様にたるみ、不快な感触だと分かる。【感染チェック】の数値はPOW×1。
《Lv6 失明》750ポイント~
<到達時の描写文>
どくり。目が熱い。不意に増した痛みに貴方は思わず蹲る。
左目の痛みが強くなり、まるで内側から何者かに眼球をかき回されているようだ。
痛い、痛い、痛い。視界が真っ赤に染まる。
その痛みと熱が、じわじわと、じくじくと広がり、やがてそれは右目にも至る。
ぶつり。貴方の頭の奥底に、心の深くに、そんな音が響いた気がした。
やがて痛みは引き、それまでずっと感じられていた熱もなくなる。
症状が治まるのを感じて貴方は顔を上げ、立ち上がる。
―――――前が、見えなかった。
以降目星等の視覚を用いる技能は使用不可、その他相応しいと思われる技能は成功値半減。
見た目には左目の充血も周囲のただれも引かず、それどころか悪化している。
右目には左目の様な異常は見られないが、どちらの目も瞳がどろりと白濁し、光を宿していない。【感染チェック】は自動失敗となる。
Lv6を超えて、850ポイントに到達した場合はロストとなる。⇒10.死亡処理参照
感染状態に陥った探索者及び苗代宗史は、シナリオの進行と共に上記の症状が進行していく事になる。ポイント蓄積により探索者の感染Lvが上がった際にはPLに個別に描写とマイナスボーナスの説明を行い、苗代の感染Lvが上がった際にも、KPから変化を示す様なRPを行うこと。
また、感染状態の進行に必要なポイントは、探索者が高Lvの感染に至り難いよう高めに調整してある。しかしシナリオのクライマックスでは苗代の症状は最終のLv6まで進行している必要がある為、KPは様子を見て苗代の症状のみ余分に進めるなどして、最終局面直前でLv6に至るよう調整すること。
呪いのゲームの内部が具現化した仮想空間。ゲームの元になった烏須目木村がかつて存在していた頃の姿を模しており、建物の配置なども実際の烏須目木村と一致する。村の外は鬱蒼と茂った森になっており、所謂マップ外なので外に出る事は出来ない。
◆民家
この後に個別項目がある特定箇所(医者の家など)以外の民家は全て同じような間取りである。
居間、畳の居室がもう一つ、押入れ、風呂、便所、台所と言った間取りだが、特に情報は出てこない。居間にはちゃぶ台、台所には食器や調理器具が揃っており、風呂は吹いて沸かす昔ながらの構造、便所は和式。居室の方には押入れがあり、布団、文机があると言った様子。日用品以外個人を感じさせるものはない。
ただし、佐伯の家にのみ文机の上にノートが置いてある。内容は以下の通り。
『なぜだ のろいのこ おにのこ まおうのこ どうして わたしのこが!
おぞましい いまわしい なぜ なぜ!
つまがしんだ それもすべて あれのせいだ
ころしてしまえ やっつけてしまえ あれがすべてわるいのだ!』
【日本語orアイデア】整った筆文字であるが全てひらがな、文書であるのに感嘆符がわざわざ書かれている事に違和感を感じる。まるでゲームのメッセージの様だと思う。
佐伯の家は忌み子が生まれた家庭である。
◆学校
空き地一つ分くらいの開けた敷地の奥に、横長の家屋が一つ建っている簡素な施設。しかしながら、他の建物に比べれば少ししっかりとした作りで、村の中では大き目の建造物である。
【感染チェック】失敗:外壁にべったりとついた赤い手形が見える。
⇒手形を辿るのであれば、教室まで続いていると分かる。
中に入れば、それが学校の様だと分かる。内部はこじんまりとしており、教室は一つ、職員室、トイレのみの簡単な作りになっている。ただし職員室やトイレは所謂”マップ外”であり、扉が固く閉ざされていて開かない。
●教室
机は十数組あるのみのこざっぱりとした教室。教室の前方には黒板、後方には掃除用具入れがある。黒板には大きく真っ赤な字で、子供の書いたような落書きが書いてある。
『のろいのこ おにのこ まおうのこ ころしてしまえ やっつけてしまえ!』
【医学】それが血だと分かる。
⇒【SANチェック】0/1
・掃除用具入れ
扉を開けて確認すると、中から数十cm四方の黒い木箱が見つかる。
箱の中には赤黒い色をした、しわがれてひしゃげた「左腕」が入っている。
【SANチェック】0/1D2
【医学】それが子供の腕だと分かる。どの様な病変だとしても明らかに異常だが、それが紛れもなく本物の、人間のものだと分かる。
※木箱の中にあった左腕は「カオナシのひだりうで」である。これらのパーツを集めることが目的となる。
◆納屋
民家よりも一回り小さい粗末な作りの小屋。特に何もないトラップポイント。鍵が掛かっているかの様に扉が固く、開けようとするのであればSTR15との対抗になる。
扉を開くとむせ返る様な血の臭いと共に、床から溶け出す様に1D6人の村人が発生し、逃走しない場合は戦闘になる。⇒資料:NPC情報参照
◆畑
そこそこの面積を持つ広い畑だが、何も実っておらず土がむき出しになっている。
【目星】畑の外周に立ち並ぶ木々に一本だけ、桃色の花を咲かせた桜の木が混じっている。
【感染チェック】失敗:桜の木の周りにべったりとついた赤い手形が見える。
桜の木の近くまで行って見ると、不自然な程鮮やかな桃色の花が満開に咲きほこっている。
【目星】桜の木の根元に掘り返した様な跡がある。
木の根元を掘り返すと、すぐに数十cm四方の黒い木箱が出てくる。箱の中には赤黒い色をした、しわがれてひしゃげた「左足」が入っている。
【SANチェック】0/1D2
【医学】それが子供の足だと分かる。どの様な病変だとしても明らかに異常だが、それが紛れもなく本物の、人間のものだと分かる。
※木箱の中にあった左足は「カオナシのひだりあし」である。これらのパーツを集めることが目的となる。
◆川
澄んだ水が流れている。触れて見れば、冷たくて心地良さを感じる。
【感染チェック】失敗:川辺の地面にべったりとついた赤い手形が見える。
⇒手形を辿るのであれば、上流の方へと続いていると分かる。
上流の方へ近づくと、ぼんやりと明かりが見える。更に寄ってみると、それは和紙を張った小さな長方形の中に蝋燭が灯された灯篭である。そしてその横に、数十cm四方の黒い木箱が置いてある。箱の中には赤黒い色をした、しわがれてひしゃげた「右足」が入っている。
【SANチェック】0/1D2
【医学】それが子供の足だと分かる。どの様な病変だとしても明らかに異常だが、それが紛れもなく本物の、人間のものだと分かる。
※木箱の中にあった右足は「カオナシのみぎあし」である。これらのパーツを集めることが目的となる。
◆医者の家
外見は他の民家と変わらない家屋。居間、畳の居室がもう一つ、押入れ、風呂、便所、台所と言った間取りで、内装も基本的には他の民家と同一。
ただし、居室には押入れ、布団、文机に加えて棚がある。
●居室
・棚
【目星】引き出しや戸棚の中には何かの瓶やメスなどが入っていた。それに加えて、鍵が見つかる。
【医学】それが前時代的ではあるが専門家の道具であると分かる。
入っている鍵は同室の文机の引き出しを開ける鍵である。
・文机
不格好な程大きな引き出しがある。これは棚に入っていた鍵で開ける事が出来る。中には数十cm四方の黒い木箱が入っている。箱の中には赤黒い色をした、しわがれてひしゃげた「右腕」が入っている。
【SANチェック】0/1D2
【医学】それが子供の腕だと分かる。どの様な病変だとしても明らかに異常だが、それが紛れもなく本物の、人間のものだと分かる。
※木箱の中にあった右足は「カオナシのみぎうで」である。これらのパーツを集めることが目的となる。
◆長の家
他の民家に比べて一際大きな家屋。
【感染チェック】失敗:壁にべったりとついた赤い手形が見える。
中に入ると、居間、居室、台所、風呂場、便所、押入れ、書斎といった間取り。具体的な内装は他の民家と大差ない。
●居室
押入れ、布団、文机がある。
・押入れ
【目星】仕舞われた布団の奥に埋もれる様に、数十cm四方の黒い木箱がある。
箱の中には赤黒い色をした、しわがれてひしゃげた「胴体」が入っている。
【SANチェック】0/1D2
【医学】それが子供の身体だと分かる。どの様な病変だとしても明らかに異常だが、それが紛れもなく本物の、人間のものだと分かる。
※木箱の中にあった身体は「カオナシのからだ」である。これらのパーツを集めることが目的となる。
・文机
【目星】引き出しの中からノートが見つかる。
『のろいのこ おにのこ まおうのこ まちをほろぼす おそろしいこだ
とじこめたが ひにひに ちからはつよまっている
はやくじゅんびをして たいじしなくては
ころしてしまえ やっつけてしまえ あれがすべてわるいのだ!』
……以降は真っ赤に汚れて読めない
【日本語orアイデア】整った筆文字であるが全てひらがな、文書であるのに感嘆符がわざわざ書かれている事に違和感を感じる。まるでゲームのメッセージの様だと思う。
◆井戸
堂の裏手に古びた小さな井戸がある。井戸には蓋がされている。ゲーム世界でのこの場所には特に何も有用な発見はなく、トラップポイントとなっている。探索者達が近づいた時点で、不穏な気配がするなどの警告描写を行うと親切かもしれない。
【感染チェック】失敗:感染Lvによって得られる情報が異なる
Lv2以下:情報なし。よってダイスロールも必要なし
Lv3:無数の頭蓋骨が井戸の周りにずらりと積み上げられている。それらはがらんどうの眼窩で、まるで、貴方をじっと見つめているようだ【SANチェック】1/1D3
Lv4以上:貴方は、不意に意識が遠のき、気付けば井戸の中から外を見上げている。身体も動かず、声も出ないまま、段々、井戸の深くへ降りてゆく。やがて水の底へと沈みながらも、貴方はいつまでもいつまでも、ただ、井戸の外をじっと見つめていた。【SANチェック】1/1D3
井戸の蓋は非常に重く、二人がかりで退かす必要がある。開けて中を見るのなら以下の描写文を提示すること。
井戸は深い。数Mほど下に、水が張っているのが薄暗い中でかろうじて見て取れる。しかしその水面は暗く、静まっている。
不意に。ぷつりと、その水面が、泡立った。
風もなく、ただ静かにそこにあったはずの水面に、ぷつり、ぷつりと、ひとつ、また一つ。湧き立つような気泡が、呼吸するように、繰り返し膨らんでははじける。
やがてその水面は泡立ちながら膨れ上がり、そして意思を持つかの様に、井戸の側面に広がりながら、盛り上がって嵩を増し始める。少しずつ、少しずつ、水面がせり上がってくる。
そこで貴方達は気付いた。暗い水面が、いつの間にか、黒く泡立つ塊と化している事に。
【SANチェック】1/1D3
探索者が逃走するのであれば、そのまま逃げる事ができる。逃げる行動を取らなかった場合、呪いを出現させること。⇒資料:NPC情報参照
◆小屋
村の民家群から少し離れた位置に、粗末で非常に小さな小屋が建っている。かなり簡素な作りであちこち痛んでいるのが見受けられる。
【目星】小屋が外から閂で施錠されていた事が分かる。今は鍵は開いている。
【感染チェック】失敗:感染Lvによって得られる情報が異なる
Lv1:情報なし。よってダイスロールも必要なし
Lv2:獣のような唸り声が小屋の中から聞こえてくる。
Lv3:赤黒い血肉の塊のような化け物が、小屋の中から這い出して来る幻覚を見る。【SANチェック】1/1D3
Lv4以上:突然目の前の情景と異なる映像が脳内にフラッシュバックのように流れ込んでくる。それは幼い子供が虐げられる様子である。言葉にならない喚き声をあげて地面に這い蹲る子供を、複数の人間が棒でつつき回したり、ぶったりしている。【SANチェック】1/1D3
中を見てみても、小屋の中はがらんどうで何もない。ここに忌み子が閉じ込められていたという事実が垣間見られる他には、有用な情報はない。
◆堂
家というより蔵を思わせる窓のない大きな建物。高さのある建物で、外観から見ても、数十人が優に入れそうなスペースがありそうだと感じる。正面には観音開きの扉が一つある。
【オカルトor人類学】何かの集会や、儀式などに使われていた特別な場所ではないかと感じる。
中に入ると広々とした空間が広がっている。窓がない為大変暗いが、目星を振るか、実際に隅々まで歩いて確認する事で情報を得られる。
【目星】部屋の両端に沿う様に、金属で組まれた1M少しの高さの棒が立ち並んでいる。その頭は受け皿になっており、そこに火を置いて灯りとしていた事が伺える。
床には無数の刃物が散乱している。小刀、手斧、鉈、包丁、大小まで様々で、それらは赤黒く汚れている。
また、部屋の最奥には台座がある。
・床に転がる刃物
【医学】それらの汚れが血であると分かる。
⇒【SANチェック】0/1
部屋の一番奥には台座がある。近付いてみると、150cm四方程度の面積、高さ30cmほどの石造りの台座である。中央に何かを差し込む様な直径15cmほどの穴があり、その周囲のスペースは何かを置くためのものの様に感じられる。
自殺現場である為、シナリオ初日は警察の現場検証が行われており立ち入り禁止となっている。二日目以降には事件性がない事が確認され、部屋は開放される。親しい間柄であれば、大家と交渉するなどして立ち入りが可能。また、第一発見者である大家に話を聞けば、以下の情報が得られる。
・明るい若者であったが、ここ1週間姿を見なかったので心配していた
・今朝様子を見に行き外から声を掛けた所、返事がなかったので確認のため部屋に入った
・寝室の梁に縄を通して首を吊っていた。布団も敷きっぱなしで、傍らにはスマートフォンも充電器に刺さったまま、まるでついさっきまで普通に生活していたようだった
伊勢の部屋は小さな1DKで、入ってすぐのダイニングキッチンと奥の和室の他はトイレや風呂などの必要最低限の設備があるのみ。
●ダイニングキッチン
入ってすぐがダイニングとなっている。片隅にキッチンがあり、冷蔵庫とシンク、コンロなどが並んでいる。ダイニングにはローテーブルとテレビがあるのみ。
・シンク
洗い物が溜まっている。何日も前の洗い物がそのまま何日分も放置されている。探索者は伊勢が普段から自炊しており、割かしこまめな性格で洗い物もきっちりその場で片付ける様な人間だったと知っている。
●和室
寝室兼居室であり、伊勢のメイン生活スペースとなっていた部屋。押入れがあり、部屋の奥半分には布団が敷いてある。手前のスペースには机とパソコンと本棚がある。布団の脇にはコンセントから充電器のコードが伸びている。
・押入れ
布団が仕舞ってある。探索者はここに泊まり込み、布団を並べて寝た事もあったと思い出す。
・充電器
コンセントに刺さった充電器に、伊勢のスマホが繋いである。電源は入っておらず、つけようとしても電源が入らない。機械系の技能を振るのであれば、故障などしていないはずだという事が分かる。
・本棚
伊勢が大学で学んでいた経済学に関する本や、漫画本などが並んでいる。
・パソコン
伊勢のパソコン。特にロックもかかっていない為、普通に起動して中身を見ることが出来る。
【図書館orコンピューター】検索履歴を見ると「呪いのゲーム 死」「呪いのゲーム 攻略」「呪いのゲーム 伝染」などのワードが出てくる。
・布団
【目星】手書きのメモが見つかる。雑な字で走り書きされたそれは、文章というよりも、自分用のメモ書きという印象を受ける。ゲームの攻略メモのようなその文章の中には、「カオナシ」という文字が確認できる。その様なメモ書きの下に、一部整然とした文章がある。
『あと二日 そもそも俺はあと二日耐えられるのか その前にゲームオーバーになるかも
全部探してパーツは集めた筈なのに 頭はどこだ?
どうすればいい もしかして俺もこのままだとあいつみたいに、そしたら次は誰に
みんな ごめん』
★夜に訪れた場合のみ、帰ろうとした所で屋内から「伊勢のルグレ」が出現する。⇒資料:NPC情報参照
ずるり、ぴちゃりと、不快な水音の様なものを響かせて、足音が迫ってくる。
部屋の奥から突然姿を現したそれは、異様な姿をしていた。真っ黒い液状のそれが、床から染み出す様に溢れ、膨れ、みるみる内に嵩を増す。それはやがて人間の形をとり、ぷつりぷつりと泡立ちながら、次第に姿をはっきりとさせてゆく。黒いそれから形作られた姿に、貴方は見覚えがある。
それは、伊勢の形をしていた。
見慣れた友人の姿だが、それは明らかに異質な何かだった。青黒く変色したしわがれた肌の腕が、貴方の方へとゆっくりと伸ばされる。同じく異様な肌に形どられたその顔は、紛れもなく友人のそれであったが、身の毛もよだつような恐怖と苦痛に歪み切っていた。
【SANチェック】1/1D4+1
栄の家は探索者達の家のある地域から電車で2時間ほど掛かる場所にある。ごく普通の一軒家で、家主の栄 晴久が亡くなって以降誰も住んでいない。苗代が鍵を持っている。
中はトイレ、浴室、キッチン、リビング、書斎、寝室といった間取り。書斎以外には特別重要な情報はない。
●書斎
それほど広くはないが、大きな本棚、机、その上にノートパソコンがある落ち着いた雰囲気の部屋。
・本棚
プログラミング言語など情報関連の専門書、ゲーム関連の専門書などが並んでいる。
【図書館】ゲーム・情報関連の専門書に混じって、民話、伝承系の本が数冊見つかる。それらは古い村についての事実を記した本であり、様々な地方の集落の特有のしきたりなどについてまとめられている。更に、その中の一冊に写真が挟まっているページがある事に気付く。
写真はどこか山中の村の様に見える。酷く荒れていて、廃村であると分かる。写真が挟まっていたページは、「烏須目木(うずめぎ)村」という村に関するページである。
【アイデア】写真の村が、眠った後に訪れる村と酷似していると感じる。
写真の挟まっていたページを読む、インターネットで烏須目木村について検索するなどすれば、村に関して以下の情報が得られる。また、【オカルト】に成功すれば、探索者はこの村に関するオカルト的な噂を思い出すことが出来る。
・都心から3時間ほど掛かる山中に位置する小さな村
・村人数十名の大変小さな村で、外界との交流も殆どなく独特の文化を形成していたらしい
・1960年頃に疫病の大流行により廃村になっている
【オカルト】この村では障害を持って生まれた子を悪しき神に憑かれた忌み子として虐待し、生贄に捧げたというおぞましい事件があったらしい。この事は都市伝説の様な形でネットに流布しており、一説ではその直後に村に疫病が流行り村人が全員亡くなった事から、忌み子の呪いによって滅んだ村と言われている。
・ノートパソコン
パスワードが設定されているが、苗代がパスワードを知っているので中を開くことが出来る。【図書館】、【コンピュータ】でそれぞれ情報が得られる。
【図書館】ゲームに関するファイルが発見される。様々なギミックの案などが列挙されており、内容から自分のスマホにある呪いのゲームに関するものだと分かる。はじまりのまちを出た後の主人公が魔王の元に至るまでの道筋の概要などがまとめられており、エンディングまで構想は完成しているようだ。大筋の文章は以下の通りである。
『まちに掛けられた呪いを解くために旅に出た勇者は、かくして様々な苦難を乗り越え魔王の城へ辿り着く。しかし、城はもぬけの殻。実は魔王はまちのその地下に封印されて眠っていたのであった。目覚めてしまった魔王は封印を解かれ、世界中に悪を振りまくのであった…』
このゲームは勇者と魔王というスタンダードなRPGの筋書きを模してはいるが、ハッピーエンドなど用意されていないという事が分かる。
【コンピュータ】作りかけのゲームファイルが発見される。内容を確認すれば、それが自分のスマホにある呪いのゲームと一致していると分かる。内容はまだ作りかけで、はじまりのまちから出た以降のデータは作成されていないと分かる。
また、そのゲーム内である種のフラグを立てた場合に村人が喋る台詞が確認できる。
『さくらの きのしたには したいが うまってるんだよ』
『そうだ! つごうのわるいことは みずに ながしてしまおう』
『こどもの いたずらには きをつけないと』
『おいしゃさま ぼくのうで うごかないんだ みておくれよ!』
●リビング
前述の通り特に重要な情報は出てこない。ただしもし目を通すのであれば、大きなテレビの脇にある棚には様々な種類のゲームのハードとソフトがずらりと並んでいることが分かる。ソフトのジャンルは様々だが、王道のRPGが多く、ホラーゲームは少ないことが分かる。探索者がゲームを見ていると、苗代が口を開く。
「叔父さんは本当にゲームが好きで、仕事でも趣味でもずっとゲームを作ってる様な人だった。本当にゲームを愛して、大事にする人だった」
また、もしホラーゲームがあまり見当たらない事や、今回のゲームについて探索者が口にするのであれば、このようにも話す。
「元々興味がなかった叔父さんに、そういうジャンルの話をしたのは僕だ。……叔父さんが呪いのゲームを作ってしまったのは、僕のせいだ」
苗代は今回の事件について強い自責の念を感じている為、自らの危険を顧みずに犠牲者を守ろうとする。見ず知らずの探索者に協力的である理由、事件を終息させたいという意思を示し、今後どんな事になっても最後まで同行するという心づもりであることを探索者に伝えること。
ごく普通のアパートの一室。中は洗面所、トイレ、浴室、ダイニングキッチン、寝室といった間取りで、寝室が居室も兼ねている。有用な情報があるのは寝室のみ。
基本的には探索者が足を運ぶことはない場所。此処に探索者が積極的に向かうのは、苗代がシナリオ進行途中で死亡した場合であると思われる。その様な場合には、最終局面で正答側に探索者をリードする苗代の代わりに、「呪いに理屈はない」「破壊すべきものである」という印象を強調する様に情報を提示すると良い。
●キッチン
特に変わった点はない普通のキッチンだが、苗代の死亡直後に部屋に入った場合、キッチンに倒れている苗代の姿を発見する。
キッチンの床が赤く染まっている。その赤黒い液体の中心に、横たわる身体が見える。それは苗代宗史であった。その腹部は赤黒く染まり、いくつもの傷が服ごとその奥の臓腑を抉っていることが分かる。身体を丸めて床に蹲るその手は彼自身の血で汚れ、包丁を握り締めている。完全に光を失った虚ろな瞳が、フローリングを静かに見つめていた。
【SANチェック】0/1D3
●寝室
ベッドの他に本棚、机、その上にノートパソコンが置かれている。整理整頓されていてこざっぱりとした部屋。
・本棚
オカルト関連の本がぎっしりと詰まっている。また、苗代が大学で学んでいる心理学に関する本も並んでいる。
【図書館orオカルト】一冊の本がふと目に留まる。それは「呪い」という概念に関する本のようだ。
『呪いの本質
呪いとは悪しき思念のなれの果てであり、そのおぞましき悪意にはいかなる人間の論理も通用しない。ただ、憎悪と苦痛と死を振りまき、自らの存在を拡散する事のみを目的に犠牲者を求める。呪いとは、最早人間の理解を越えた、かく恐ろしいものなのである。
~中略~
では、根本的な悪という概念でしかない呪いに、何故我々はしばしば怨霊や悪霊といった、恨みを抱えた人間の恐ろしい姿を見るのだろうか。それは呪いの本質的な正体を示してはいない。それはあくまで、我々人間の恐怖心が映したまやかしの姿なのかもしれない。』
★苗代の死亡後に夜に訪れた場合のみ、部屋の付近で「苗代のルグレ」が出現する。⇒資料:NPC情報参照
ずるり、ぴちゃりと、不快な水音の様なものを響かせて、足音が迫ってくる。
通路の床から突然姿を現したそれは、異様な姿をしていた。真っ黒い液状のそれが、床から染み出す様に溢れ、膨れ、みるみる内に嵩を増す。それはやがて人間の形をとり、ぷつりぷつりと泡立ちながら、次第に姿をはっきりとさせてゆく。黒いそれから形作られた姿に、貴方は見覚えがある。
それは、苗代の形をしていた。
見知ったの姿だが、それは明らかに異質な何かだった。青黒く変色したしわがれた肌の腕が、貴方の方へとゆっくりと伸ばされる。同じく異様な肌に形どられたその顔は、紛れもなく知人のそれであったが、身の毛もよだつような恐怖と苦痛に歪み切っていた。
【SANチェック】1/1D4+1
人里離れた山中にある廃村。都心から向かうには最寄りの街まで電車で2時間半、山道を徒歩で30分と合計で片道3時間ほど掛かる。酷く荒廃しており、倒壊してしまっている家屋も多く見られる。重要ではない民家は全て倒壊しており、中に入る事は出来なくなっている。
◆民家
いずれも酷く傷んでおり、半ば倒壊していて中を調べる事は出来ない。
◆学校
空き地一つ分くらいの開けた敷地の奥に、横長の家屋が一つ建っている簡素な施設。しかしながら、他の建物に比べれば少ししっかりとした作りで、村の中では大き目の建造物である。
中に入れば、それが学校の様だと分かる。教室と思しき部屋は一つのみで、後は職員室、トイレのみの簡単な作りになっている。職員室やトイレには特に何もない。
●教室
机は十数組あるのみのこざっぱりとした教室。教室の前方には黒板、後方には掃除用具入れがある。掃除用具入れは調べてみても空っぽ。
【目星】黒板の端に落書きがしてある。大分掠れているがかろうじて読みとれる部分には
小屋の絵と、そこから目と手を覗かせる化け物の絵が描いてある。
◆納屋
民家よりも一回り小さい粗末な作りの小屋。鍵が掛かっているもののかなり古びており、鍵開け技能の他、STR14との対抗で開ける事が出来る。
開けると中には無数の刃物が入っている。斧、鉈、肉切り包丁、小鎌、日用品から武器のようなものまでが整然と並んでいる。
【目星】半数以上が錆びついて赤黒く変色している分かる。
【医学】その汚れが、かなり古いが血の跡であると分かる。
◆畑
荒れ果てて雑草の他には何も作物の実る様子はないが、かなり広大な面積の畑跡地。この村が自給自足の閉鎖的な生活をしていた事を思わせる。特に情報はない。
◆川
澄んだ水が流れている。触れて見れば、冷たくて心地良さを感じる。特に情報はない。
◆医者の家
外見は他の民家と変わらない家屋。辛うじて損壊が軽く、家の奥の一室が部屋の形を保っており、調べる事が出来る。その部屋にはぼろぼろに傷んだ布団のようなものと、棚と文机がある。
・棚
【目星】引き出しや戸棚の中には何かの瓶やメスなどが入っていた。
【医学】それが前時代的ではあるが専門家の道具であると分かる。
・文机
【目星】引き出しが一つ、鍵がかかって開かない事に気付く。
文机の引き出しの鍵はどこにもないが、かなり古いものなのでSTR6との対抗で簡単に開ける事が出来る。引き出しを開けると、中から一枚の便箋が出てくる。内容は以下の通り。
『異常だ。あれは生れ持っての器質的なものであるが故、私には治せぬがあのような迷信的な物では断じてない。神憑きだなどと、荒唐無稽である。しかしそれを口にすれば私は、彼と同じ末路をたどるであろう。我が身惜しさにこうして七年もの歳月を黙してきたことのなんと罪深きか。ああ。結局、最後まで、私には何も成せぬままであった。
あの苦悶の表情の、呻く声音の恐ろしさよ。村の者達は彼の肉を、削いだ。鉈で、斧で、鎌で、肉を傷つけ血を流させ、尚も彼らはそれを続けた。苦悶の声の一片すら漏れぬまで続けた。そうして彼の声が断たれると、漸く彼らは悪しき神憑きが祓われたと言って、その凶行を終えた。
ああ、しかし。有り得ぬ。あのおぞましい光景が瞼の裏に浮かぶ。彼らは絶命したその身体を、粉々に切り刻んだ!信じられるだろうか、ああ、おぞましい!
骨の一片も残さぬ様にと砕いた後、頭蓋のみは子の人たる部分が残っていると、井戸へと埋めた。最近になって突然人出を集めてあのような浅井戸など掘らせたのは、その為であったのか。気が狂いそうだ。やはりこの村は、狂っている。元より余所者である私には理解する事など無理に等しいのだ。このような事を書いている事がしれれば、それすらも、ああ、しかし、このおぞましい事実を、せめて残さねば気が済まぬ…』
【SANチェック】0/1
◆長の家
他の民家に比べて一際大きな家屋。すっかり風化してはいるが、建物の形は保っている。内部には崩れてしまっている部屋も多いが、居室だった部屋が比較的原型を留めており、調べる事が出来る。
●居室
部屋の奥に押入れがあり、壁際には小さな文机がある。
・押入れ
黄ばんで萎み切った古い布団が仕舞われている。特に何もない。
・文机
【目星】引き出しの中から手記が見つかる。
『1952年10月 佐伯の家に忌み子が生まれる。目と耳を生まれながらにして失い、外界との関わりを断たれし子。悪しき神憑きの忌み子は小屋へと封じ、そこで人の子となるまでの間待つ事とした。佐伯は子を差し出し、村の安寧の為の供物とする事を了承。あの夫婦にとっては初の子だ、それがよもや神憑きとは。
1957年4月 忌み子は獣の如く、人の言葉を語らず、ただ与えられた食事をむさぼる様に食らっては小屋の中で日々成長している様子。佐伯の妻が亡くなった為、餌やりの役目を代わる者が必要。
1959年 10月 忌み子の年が七つとなった。人の子となったあれを、始末せねばならない。次の朔の日に取り行う。堂の用意を整え、井戸を作る用意に掛かる為、男手が必要だ。
1959年 11月 忌み子の悪しき魂が裁かれ、神の御許へと与えられた。これで悪しき神も怒りを鎮め、村は救われる事だろう。佐伯の新しい妻に、子供が出来た。忌み子が祓われた為だろうか、此度は無事人の子であった。』
◆井戸
堂の裏手に古びた小さな井戸がある。井戸には蓋がされておらず、つるべを掛ける紐が井戸の中深くへと沈んでいる。覗き込んでも、底は暗く濁っており良く見えない。
紐を引くと、それがつるべにしては重い感覚であると感じる。引き上げると、紐の先には、つるべの代わりに40cm四方程の大きな金属製の箱が結び付けられている。錆ついた箱を開けると、中には人間の頭蓋が入っている。
それは箱の保存状態が良いせいか、はたまたそれ以外の理由か、腐ることもなく、痛むことも欠損することもなく、綺麗な形で残っている。白い丸みを帯びた骨は、しかし、綺麗に整った見た目に反して気分が悪くなるような腐臭を放っていた。
【SANチェック】0/1D3
【医学】これが推定5~7歳程の子供の骨であると分かる。
※この頭蓋骨は忌み子のものであり、ゲーム内で言う「カオナシのあたま」の役割を持っている。この頭蓋骨を現実世界の堂の台座に置く必要がある。
◆小屋
小屋の跡地は崩されて跡形もないが、そこを指定して調べた場合「呪い」遭遇イベントとなる。⇒資料:NPC情報参照
逃走し損ねた探索者が居た場合、最も逃げ遅れた(出目が悪かった)探索者は捕まってしまう。
○○の足を引き留める様に、黒い塊がぐちゃりと音を立てて絡みつく。次から次へと地面から染み出すそれは見る見るうちに体積を増し、○○の身体を覆いつくしてゆく。まるで巨大な軟体生物が獲物を捕食するように、黒いおぞましい塊が全身を飲み込んでゆく。他の誰もが咄嗟の事に動けずにいる内に、人ひとりを飲み込んだその黒い塊は溶ける様に黒い靄になり、地面に沁み込むように跡形もなく消えてしまった。
「呪い」に取り込まれた探索者は、堂へと連れて行かれる。堂へ連れて行かれた探索者は忌み子と同じように、視覚・聴覚・発話を奪われた状態で十字架に磔にされ、忌み子の経験した苦痛を追体験する事になる。
他の探索者には伏せて取り込まれた探索者にのみ以下の描写を提示すること。
貴方は混乱する。恐怖する。何も見えず、聴こえない暗闇の中、身体が何かに固定される。身動きしようとしても、身体は思う様に動かない。その時、不意に、貴方の身体に強い衝撃が訪れる。
それは、鋭い痛みだった。刺す様な、斬る様な、痛み。激しい痛みが、腕に、足に、腹に、全身に襲いかかる。痛い。痛い。痛い。痛い。
痛みと共に、全身が熱くなる。血の気が失せて、その痛みの箇所から全身の血が流れ落ちる様な感覚に陥る。身体の肉を少しずつ抉られる様な、裂かれるような、焼かれるような、壮絶な痛み。それは絶え間なく全身に与えられる。痛い。気が狂いそうな程の激痛が貴方を襲う。
貴方は「殺される」という強い恐怖を感じるが、声は出ない。身体も動かない。意識だけは鮮明にその痛みを感じ取るが、指一本たりとも動かなかった。
痛い、痛い、痛い、苦しい、苦しい、苦しい……
何が起きているのか、誰に何をされているのかすら分からない。何一つ分からない貴方の頭を埋め尽くすのはただ苦痛ばかりであった。
【SANチェック】1D3/1D6
上記の経験をした探索者はLv1の感染状態になる。以後感染のポイント処理を忘れず行うこと。
◆堂
家というより蔵を思わせる窓のない大きな建物。高さのある建物で、外観から見ても、数十人が楽に入れる程のスペースがありそうだと分かる。正面には観音開きの扉が一つある。
【オカルトor人類学】何かの集会や、儀式などに使われていた特別な場所ではないかと感じる。
中に入ると広々とした空間が広がっている。窓がない為大変暗いが、目星を振るか、実際に隅々まで歩いて確認する事で情報を得られる。
【目星】部屋の両端に沿う様に、金属で組まれた1M少しの高さの棒が立ち並んでいる。その頭は受け皿になっており、そこに火を置いて灯りとしていた事が伺える。
また、部屋の最奥には台座があり、その上に粗末な十字架の様なものがある。
部屋の一番奥にはゲーム世界同様台座がある。近付いてみると、150cm四方程度の面積、高さ30cmほどの石造りの台座である。中央に固定されているのは粗末な木製の十字架だが、古びているものの何故か今の今まで崩れずに残っている。
★小屋でのイベントで「呪い」に連れ去られた探索者が居る場合、この十字架に囚われている。以下の文を参考に描写すること。
薄暗い堂の奥に、粗末な木で造られたそれは、十字架に見えた。台座の上に置かれたそれに、見覚えのある姿がある。○○が、その十字架へと、磔にされていた。両の腕を広げて、横へ伸びる木に固定されている。その腕は自由を封じる為に、手首のあたりで黒く何重にも縛られているのが分かった。
近付いて見れば、その異様さに気付く。見知ったその相手は、言葉を発する事もなく、静かにそこに磔にされているだろう。暴れる事も、悲鳴を上げる事もない。そしてその目と耳は、手首と同じ様に拘束されていた。……否、それは、拘束などではない。黒い“なにか”が、彼(彼女)の両の目と耳を塞ぐように、こびりついている。よく見れば、手首を固定するそれも紐や縄などではなかった。黒光りする、どろりとしたそれが、彼の手首に、目に、耳に、べっとりと付着している。彼を解放すべく手を伸ばせば、それは容易に取り去る事ができるだろう。その異物を取り払おうと伸ばした貴方の手に、その物体はべとりと触れる。粘つくような、ぬめつくような、今までに触れた事のない不快な感触。それは腐った臓腑のような、強烈な臭気を発する。貴方は手にこびりつくそれに、自分の手がどろどろに溶かされて、腐り落ちるような錯覚を覚えた。
「呪い」の黒い粘液に触れた場合【SANチェック】0/1D3
ひどい不快感には襲われるが、黒い粘液は手で拭えば簡単に取り去る事が出来る。粘液は跡形も消え去り、磔にされていた探索者は解放されると同時に全ての感覚を正常に取り戻す。
1日目の夜を終え、翌日の日中に苗代と合流したタイミングで、苗代の口から栄 晴久に関する情報を提示し、栄の家を探索場所として提示すること。KP側から誘導せずとも、探索者達と苗代が合流すれば自然と苗代の持つ情報や状況を詳しく訊く流れになると思われるので、会話の流れで情報を提示するようにすれば良い。
苗代は改めて探索者達と話をすれば、持っている情報を素直に話す。大まかな情報及び反応は以下の通り。
●前日までの行動について
・呪いのゲームの犠牲を止める為に噂について調べていた
・伊勢秀人にゲームが配信されたらしい事を知り、次に配信されそうな探索者達に注目した
・昨日朝の接触は探索者のスマホから呪いのゲームを吸い出そうとした。そうする事で探索者達のスマホからゲームが消去され、呪いから免れるのではないかと考えた為である。
・結果、苗代のスマホにも呪いのゲームが出現した。
●呪いのゲームとの関連性について
・「呪いのゲームを作った人間を知っている」
・ゲームプログラマーの叔父がおり、一か月程前に自宅で変死した
・叔父が最後に作っていたゲームが「廃村をテーマにした自作ゲーム」だと聞いていた
・叔父の名は栄 晴久、自宅の鍵も所持している
その他にも知っている情報については訊かれれば答えるが、「何故そこまでして初対面のはずの自分達に介入してきたか」「危険を冒して呪いのゲームに関与するのか」という質問に対してははっきりとした理由を答えない。苗代は叔父に呪いのゲームを作らせてしまったという負い目から今回の事件全体を自分の責任であると感じているが、その事を探索者に語る事はなくただ「犠牲を出したくないから」とだけ答える。
2日目の昼の探索を終えて探索者達が眠りに就くと、意識が途切れた後ゲーム世界内の前夜探索を終えた位置で全員揃って意識が戻る。全員居る事を確認して苗代から以下の台詞を出す。
「どうやら、前回の続きからいつでも再開できるみたいだね。ゲームはセーブして終わればいいって事だ」
探索者達が行動を開始しようとした所で、以下のイベントが発生し、「忌み子」が出現する。
貴方達の立つ場所の丁度中心辺りの地面が不意に、ゆらりと揺れる。まるで沸き立つ様に、固いはずの地面が液体のようにごぼりと揺らぐ。思わず数歩後ずさる貴方達の眼前で、それは地表からかけ離れた形に膨れ上がり、やがてそこから這い出す様に、赤黒い塊が姿を現した。腐臭を纏うその肉塊は、ぐちゅぐちゅと揺らぎながら人の形を作ろうとしているように見えた。
4つの手足と思しき突起を地面に這わせて、獣の様に低い姿勢で、頭と思われる奇妙な腐肉の塊を貴方達の方へ向けている。その顔にあたる部分さえ、ふつふつと沸き立つ様な気泡を孕んだ血と肉の塊でしかないにも関わらず、それは確かに貴方達を「見て」いた。
【SANチェック】1D3/1D6
その後探索者全員に1D100をロールさせ、最も出目が高かった探索者に対して忌み子は素早く飛び掛かり全身にしがみつくようにして接触を行う。忌み子はそのまますぐに地面に溶ける様にその場から消えるので戦闘にはならないが、接触を受けた探索者はLv1の感染状態になる。
苗代は忌み子の姿を見て「今のだ。僕も昨日、一人でこの場所を歩いていた時に、あれに襲われた」と口にする。
◆初回起動時
初回起動時には2.ゲームのインストールの項目を参考にオープニングを描写する。ただし、ゲームアプリを起動する前に夜になりゲーム世界を探索した場合は、オープニングの描写はなく2回目以降の起動時の描写と同様となる。
◆2回目以降起動時
2回目以降の起動時には黒背景のトップ画面に「つづきから」のボタンのみが表示されている。タップすると前回アプリを終了した地点からゲームが再開される。また、セーブはできるが、しなかった場合も中断した箇所から再開される。
◆ゲーム内容
「はじまりのまち」のマップで主人公を操作でき、得られる情報は以下の通り。
・教会の女の子「しさいさまが おいのりするのに ひつようなんだ。 カオナシのパーツ あつめて」
・教会の司祭「カオナシのパーツをあつめたら このさいだんにおいておくれ」
・まちの男の子「パーティは いちどくんだら ずっといっしょだよ!」
◆進行に応じた変化
・1日目夜後にメニュー画面を確認すると、探索者それぞれの名前のキャラと「そうじ」という名前のキャラがパーティとして表示されている。
・ゲーム世界でカオナシのパーツを手に入れていた場合、持ち物画面に対応する「カオナシの○○」が表示されている。
・ゲーム内でパーツを教会の祭壇に置く事はできないが、ゲーム世界の堂及び現実の烏須目木村の堂に身体のパーツを置いた場合、ゲーム内でも祭壇の上に対応するカオナシのパーツが置かれる。
・ゲーム内で全てのパーツを祭壇の上に揃えても、司祭の台詞も変化せずイベントは進行しない。
全てのカオナシのパーツをゲーム世界及び現実の台座に納めた場合、最終イベントが発生する。以下は最後のパーツをゲーム世界で納めた(頭以外を最後にした)場合の描写である。
箱を台座に置いた瞬間、貴方達全員の視界が暗転する。
そして程なくして目の前が明るくなると、貴方達は村の入口に立っていた。目の前には村の奥へと進む道があり、その左右は先の見えない暗闇に覆われていた。それはまるでゲームのイベントシーンで無関係な画面領域を遮る黒帯のようだと貴方達は直感する。
貴方達に示されているのは、奥へと進む道のみだ。
そのまま道を進んで再び堂へ向かう事になるが、この時点で苗代の感染状態がLv6に至っていない場合、道を進むごとに症状が急速に進む描写を行い、堂に着くまでにはLv6の失明状態まで至らせること。ただし探索者が行動が困難になった苗代を連れて行かないという選択をしない様、コミュニケーション可能な段階の内に苗代自身が「何があっても最後まで同行する」という頑なな意志を持っている事を示しておくこと。
そのまま堂まで辿りつき中に入ると、更にイベントが続く。
中に入った途端、変化が起きる。
薄暗い堂の両脇に並んだ棒状の器の先に一斉に火がともる。ひとりでに点いた炎がめらめらと燃えあがり、屋内を薄く照らし出す。
照らされた先、堂の最奥にそれはいた。
台座の上に建てられた十字架に、それは縛りつけられるように張り付いていた。人の形をしてはいるが、それは明らかに、あまりにも人とはかけ離れている。赤黒い、血と肉の混じり合った様な半液状のどろりとした塊。それは形を保ちながらも、しきりにふつふつとわき立つ様に、呼吸の様に気泡を全身から吐き出している。僅かに脈打つように揺れる表面が、どろりぐちゃりと不快な音を響かせる。皮膚もなく、骨もなく、ただ、血と肉がかろうじて人の形を成しているような。そんな異様な化け物が、磔にされたまま、じっと貴方達の方を見ている様な気がした。
【SANチェック】1D3/1D6
化け物はそこに磔にされているだけで、襲って来る様子はない。近付いてよく見るか、目星を振る事で以下の情報が得られる。
【目星】その化け物の胸には、太い、麺棒ほどもある様な木製の杭が刺さっている。
化け物はまるでその杭に苦しむように、身じろいでは声ともいえぬおぞましい声で呻く。探索者達が杭の存在を確認した時点で、イベントを進める。
不意に、声が聞こえてくる。
それは何処からともなく、まるで、貴方の心の底から湧いてくる様な、脳の中へと直接語りかけてくる様な、そんな得体のしれない声だ。出所の分からないその言葉が、貴方達全員にはっきりと聞こえる。
「苦しい……助けて…どうして…抜いて…抜いて…」
声の種類を気にするのであれば、幼い男の子の声に聞こえる。また、心理学などの技能は一切試行できない。
探索者達が杭を抜こうとして(あるいはそれ以外の意図でも)十字架に近づいた場合、イベントを進める。
「やめろ!!」
突然、貴方達に向かって怒気を孕んだ様な激しい怒鳴り声が向けられる。驚いて見やれば、苗代宗史がそれまでになかった程の声を張り上げて、最早光を映さない瞳で貴方達を睨みつけている。視覚も聴覚も機能していないはずの彼は、ふらふらと探るように貴方達の方を見据え、両手に握り締めた大きな鉈の切っ先を向けながら、ぶつぶつと何事か呟いている。
「やめろ…やめろ……殺して…殺す…杭を打って殺して……」
十字架にかけられている化け物は忌み子の姿をしているが、実際には村人たちの怨念が変化したゲームの「呪い」そのものである。現在はゲームの枠組みに繋ぎ止められている為ゲームを受信した犠牲者にしか影響を与えられないが、枠組みから解放されてより多くの人間を呪う事を望んでいる。その為、哀れな忌み子の姿を取る事で探索者達に杭を抜かせる、つまり枠組みからの解放をさせようとしているのである。
苗代は感染状態が進み、精神が呪いや忌み子などの存在に近い状態になっている為、直感的に十字架にかけられたものが呪いの根源であり、解放してはならない恐ろしいものであると理解した。その為、探索者達が動く気配を感じた瞬間、半ば狂乱状態で形振り構わず杭を抜く行動を止めようと襲い掛かってくる。
たとえ誰かが苗代の手を引くなどして傍に居たとしても、一瞬の隙をついて地面に落ちてる鉈を取り上げて敵対姿勢を取る。戦闘処理となるが、攻撃技能は初期値である事に加えて視聴覚が失われている為、探索者達の脅威にはなり得ない。詳細なステータスは資料:NPC情報を参照。
苗代宗史 HP10 MP9 DEX9 視覚がない為回避は行わない
鉈15%(初期値に加えて失明マイナス付きの数値) ダメージ1D8
一切の交渉、精神分析などの技能は通用しない
苗代は意識がある限り襲い掛かってくる。取り押さえる、気絶させる、殺すなどの対処をしない限り抵抗をやめない。
杭を抜く場合でも打つ場合でも、苗代を無力化していない状態の場合、苗代の妨害を受けながらの行動になるため完遂まで1Rが必要になる。また、杭を抜く・打つ行動中のPCは回避が不可能。
また、もしこの時点で感染Lv6以上の探索者が居る場合、苗代の異変と同じタイミングでその探索者にのみ以下の情報を提示する事。
最早目も見えず耳も聞こえぬ貴方には、目の前の状況すら把握できない。それでもはっきりと感じたのは、第六感とでも言うべき本能だろうか。
今、目の前に、すぐ目の前に、何よりも恐ろしい存在がある。それは純粋な悪意とでも呼べる様な、おおよそ人の触れて良いものではない。知覚できないはずの存在を、貴方はすぐ目の前にはっきりと知覚する。そして、ただこう思った。
それを殺さなければならない。
苗代の言葉を聞いてから改めて十字架を見れば、杭がまだ完全に刺さり切っていない事が分かる。十字架の傍らを見れば、台座の上には杭を抜くための道具と、杭を打つための槌がある。杭を打つか、あるいは抜くかが最後の選択となる。
杭を抜けば呪いがゲームの枠から解き放たれてしまうので、杭を打って呪いを消滅させる事が正答となるが、PLにとっては悩みどころになると思われる。忌み子に対する同情心と、苗代の杭を打てという言葉によって簡単には判断がつき難いと思われるので、じっくり考える時間を取って良い。
杭を打つ判断材料としては「忌み子は三重苦故に言葉を話せない筈である。よって言葉をもって語り掛けて来るその声は忌み子ではあり得ない」というものが正解となるが、テストプレイ時にはこの論拠に至ったPLは居なかった。抜けという声と打てという苗代の言葉それぞれの心証の間で悩む位が妥当であると思われる。
シナリオの攻略難易度を下げたい場合は、上記の論拠を【アイデア】などで提示してしまっても構わない。
また、Lv6感染者は居ないものの、もし苗代以外に感染状態がLv5以上まで進んでいる様な探索者がおり、なおかつPL達が答えを出す事に難儀した場合には、【アイデア】などを振らせて「目の前の”忌み子”に何か言い表せない違和感を覚える」などのヒントを与えても良い。
杭を打つ場合⇒11.エンディング:GOOD ENDへ
杭を抜く場合⇒11.エンディング:BAD ENDへ
この項目では、最後の選択によるエンディング分岐以外の道中で探索者が死亡した場合の処理について記述する。また、NPC苗代宗史の死亡時の演出についても記述する。
◆現実で敵の攻撃によりHP0になった場合
探索者の死体はその場で「呪い」に呑まれて消失する為、行方不明扱いとなる。
<HP0になった際の描写>
力尽きて倒れ伏した体はどさりと重たい音を立てて地面に激突する。直後、その地面から染み出す様に、黒い靄の様なものがどろりと現れ、貴方の身体にまとわりつく。辛うじて映る視界の端で、自分の腕がその黒い、おぞましい何かに、飲み込まれていくのが分かる。
最早痛みも感じない身体が、ひんやりとした、骨の芯まで凍らせる様なおぞましさを持つそれに、飲み込まれ、取り込まれ、同化してゆく。それと同時に、意識の中に何かが入ってくる。痛み、苦しみ、憎悪。あらゆる負の感情が、注ぎ込まれる様に貴方の意識を満たしてゆく。貴方は本能的に感じるだろう。自分が、あの恐ろしい「呪い」と、一つに成るのだと。
新たな自分自身の一部として貴方の全身を包み込み取り込んだそれは、とぷりと、地面に溶けるようにしてかき消えた。
◆ゲーム世界で敵の攻撃によりHP0になった場合
上記と同様にその場で死体は呪いに取り込まれて消失する。描写は上記参照。現実では、翌朝目が覚めた所で自殺し死亡する。方法は探索者に合ったもので構わないが、以下に一例を示す。
<自殺時の描写例>
貴方は自分のベッドで目を覚ます。目覚まし時計は普段通り朝を告げている。しかし貴方の精神は既に、呪いに侵し尽くされている。貴方の体は既に、貴方のものではない。
体を起こした貴方はふらふらと、寝巻きのままで部屋を出る。窓を開けてベランダに出れば、心地好い朝の冷えた空気が身を包む。しかしその感覚も最早、貴方の心を揺り動かす事は二度とない。貴方は既に意思と言うものを失い、何かに操られるかの様に、手すりに手をかけ身を乗り出す。視界の端に、遥か下にあるコンクリートの冷ややかな地面が映る。
まるで当たり前の様に、一歩踏み出す。
そして、貴方の視界は反転し、一瞬の浮遊感の後。
ごきゃ。
そんな歪な音が、頭蓋の内から響くのを最後に、貴方の意識は途切れた。
◆感染状態のポイントが850を超えた場合
この場合も現実世界で目が覚めた後自殺する事になる。自殺時の演出については上記参照。
<感染ポイントが850を超えた際の描写>
視覚も、聴覚も失った貴方の意識に、徐々に何かが流れ込んでくる。それと同時に貴方は理解するだろう。忌み子の感じた耐え難い苦痛、なすすべもなく与えられるそれの恐ろしさを。同じ痛みが、苦しみが、貴方の全身を襲う。そして最早身体の感覚すら失った貴方の精神を、あらゆる負の感情が、染み渡る様に満たしてゆく。貴方は本能的に感じるだろう。自分が、あの恐ろしい「呪い」と、一つに成るのだと。
そう貴方が理解すると同時に、貴方の身体は人の形を失い、どろりと溶け出す様にあのどす黒い塊となっていた。その意味を悟るよりも早く、「呪い」と成った貴方は自我も形も魂すらも失い、とぷりと地面に沈んで消えた。
◆SAN値が0になった場合
この場合も感染ポイント850越えの場合と同様に、「呪い」と同化した後現実世界では自殺する事になる。演出については上記参照。
<SAN値が0となった際の描写>
最早正常な精神を失った貴方の意識に、徐々に何かが流れ込んでくる。それと同時に貴方は理解するだろう。忌み子の感じた耐え難い苦痛、なすすべもなく与えられるそれの恐ろしさを。同じ痛みが、苦しみが、貴方の全身を襲う。そして最早身体の感覚すら失った貴方の精神を、あらゆる負の感情が、染み渡る様に満たしてゆく。貴方は本能的に感じるだろう。自分が、あの恐ろしい「呪い」と、一つに成るのだと。
そう貴方が理解すると同時に、貴方の身体は人の形を失い、どろりと溶け出す様にあのどす黒い塊となっていた。その意味を悟るよりも早く、「呪い」と成った貴方は自我も形も魂すらも失い、とぷりと地面に沈んで消えた。
◆ゲームを攻略できないまま8日目を迎えた場合
この場合も8日目の朝に自殺する事になる。演出については上記のSAN0の際の描写及び<自殺時の描写例>を参照。
◆苗代宗史が途中でロストした場合
各肉体的・精神的死亡処理については探索者と同様とする。ただし、苗代が自殺した朝、探索者全員に苗代のスマホから以下の様なメールが届く。このメールは、苗代と連絡先を交換していない場合にも送信されてくる。
『from:苗代宗史
ごめん 目が痛くて、ちょっと気分が悪いんだ。
もしかすると、向こうにいくのは少しおそくなるかもしれない』
このメールに返信した場合、程なくして全く同じ内容が返信されてくる。以後、いくら送信しても同じメールが送信されてくるばかりである。
◆GOOD END:終止符
最後の選択で杭を打った場合のエンディング。
力強く槌で打たれ、太い杭が化け物の胸部に深く、深く刺さる。
大きな杭の頭が子供ほどの体躯の化け物の胸に深く沈みこみ、その瞬間、化け物は恐ろしい悲鳴を上げた。獣の咆哮の様な、恐ろしい声。それは生物でいう、断末魔のそれであった。次の瞬間、杭を打たれている部分の血肉がどろりと融ける。膨れ上がり、ぶくぶくと激しく沸騰する様に収縮し、そして飛沫を飛ばしながらどろり、ずるりと崩れてゆく。杭の周辺が腐食するように、じわじわと穴が空いて広がってゆく。融けた血肉は黒い靄の様な塊になり、十字架を伝って台座へと流れ落ち、地面へと融け込んでゆく。
やがて、貴方たちの見て居る前でその血肉の化け物はすっかり融けて、ぐちゃりと台座へと垂れさがり、流れ落ち、すっかり地面へと融け込んでなくなってしまった。
最後に、全て流れ落ちた台座の上に、白い、小さな、白骨の頭蓋だけが残された。
それを目にすると同時に、貴方達の視界は白み、意識が遠のく。
そして貴方達が再び意識を浮上させると、そこは各々が眠りに落ちた場所であった。窓からは心地の良い朝日が差し込んでおり、時計は午前8時を指している。
傍らに転がっているスマートフォンを見れば、その画面にはもう、あの呪いのゲームは存在しなかった。
貴方達は無事、ゲームをクリアし、呪いに終止符を打ったのだ。
以後、呪いのゲームが誰かのスマホに配信される事もなくなり、噂もじきに自然消滅する。
SAN値報酬
生還した:1D10
苗代が生存している:1D6
◆BAD END:氾濫
最後の選択で杭を抜いた場合のエンディング。
力を込めて杭を引き抜く。ずるり、という感触が道具越しに手に伝わった。
その瞬間、恐ろしいうめき声が堂全体に響き渡る。
杭が抜かれた穴から、赤黒い血肉は膨れ上がり、そしてふつふつとわき立つ様にして、気泡を吐き出しながらみるみる内に嵩を増して行く。穴から吐き出される様に膨れる血肉は人の形を覆い尽くし、十字架や台座すらも飲み込み、濁流の様に瞬く間に堂全体へと溢れ出す。貴方達は逃げ出す間もなく、足元にその赤黒い血肉がまとわりついた。ぐちゅり。生ぬるい、脈打つ感触が、まるで貴方達の足を掴むように這い上がってくる。いくらもがいても、その血肉は離れる事無く、貴方達の身体を覆い尽くして行く。やがて、完全にその血肉に呑まれ、視界は赤黒く染まった。意識すらも赤く染まり、全ての理性が失われる。
最後の意識が途切れる間際、貴方を満たしたのは、計り知れない苦痛と痛みだった。
程なくして、某大学の学生○名が同日に自殺したという事件がニュースになる。ゲームに秘められた呪いを解き放った彼らは、それに飲み込まれ、自ら命を絶つ事となったのだ。
そしてゲームという枠から解放されたそれは、やがて、無差別に人々を襲う恐ろしい邪悪へと成り果て、人の世へと氾濫してゆくのだろう。
探索者ロスト
このエンディングでは探索者は全員自殺によりロストとなる。
このシナリオは2015年に音無が初めて制作したシナリオです。
何かホラー要素の強いシナリオを作りたいと思い、以前プレイして印象に残っていた「ナナシノゲエム 目」をオマージュして作る事に。クトゥルフ神話要素はありませんが、ホラー味はあると思います。
あとは、初期のコンセプトとして「最後に大どんでん返しを作りたい」というのがあったので、最終的に忌み子が実際の”忌み子”ではない、ずっと協力NPCだった苗代が襲って来る、というギミックを噛ませています。
身内でテストプレイをした際は、3卓回しましたが「三重苦だから言葉を話せない」という点に気付いたPLはいませんでした。実際プレイ中にリアルタイムで気付くにはヒントが少なすぎる情報だと思います。しかし別にこれに気付かずともGOODENDを選択する確率は低くないと思いますし、後から真相を話す際に実はこうだった、と話すと「確かに!」と納得してもらえるんじゃないかな?と思って割と満足してます。自己満足ですけど。
個人的な趣味のオカルトマニアNPCを作れて満足です。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
実際にプレイしてくださった方は、よろしければ是非アンケートにご協力ください。
シナリオページに掲載する難易度や目安時間などの参考にさせていただきます。