雨の降る街

本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

 

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.

Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.

PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION

 

 

PL向けあらすじ

 探索者たちの住む町で、最近こんな噂が流れている。

 

「雨の日は雨男が現れて人を拐ってゆく」

 

 6月になってからというもの、雨が降る度に行方不明事件が発生し、既に3人が消息を絶っている。ネットではオカルト好きが口々に語っていた。

 

「雨の日に、黒ずくめの"雨男"を見た」

「雨男が人を拐うのだ」

「雨男を見たらすぐに逃げろ、でなければ―――」

 

 

 

 

シナリオ傾向・ハンドアウト等

舞台:現代日本 

推奨人数:2~4人

シナリオ傾向:シティ

想定時間:ボイスオンセで4時間前後

推奨技能:基本探索技能、オカルト

 

 

 本シナリオのHOは導入や探索の理由付けのためのものである。HO1/HO2のいずれかが最低1人居れば良く、いずれかのHOが複数人居ても、いずれかのHOが居なくても良い。

 

◆HO1 友人(職業自由)

貴方の友人である坂巻 茜という女性が、2日前に消息を絶った。今月3人目の行方不明者だ。フリーカメラマンでオカルト好きでもある彼女は2日前、「雨男の噂を確かめて写真に残す」と言ったきり姿を消した。

貴方は彼女を見つけるべく、雨男の噂を調べることにした。

 

◆HO2 雑誌記者

貴方はオカルト雑誌の記者だ。近頃話題の「雨男」についての記事を書こうとしていた矢先、記事に使う写真を委託していたフリーカメラマンの坂巻 茜が2日前に行方不明になった。

仕事仲間であり、行方不明事件の3人目の被害者でもある坂巻 茜の行方を追い記事を仕上げるべく、調査に乗り出す。

 

◆HO3 探偵

貴方は探偵である。HO1またはHO2から坂巻 茜の行方を調べてほしいと依頼を受けた。

貴方は彼女を見つけるべく、彼らと協力して調査に乗り出す。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

――――――――これより下はKP向け情報となります――――――――

目次

KP向けあらすじ

シナリオの大まかな流れ

シナリオ背景

主要NPC

 

シナリオ本文

1.導入

2.坂巻自宅

3.出版社

4.嵐山宅

5.街

6.湯川への報告

7.異変

8.ひかり公園

9.稲見邸

10.夜道

11.稲見邸再び

12.木嶋邸

13.対峙

14.エンディング

 

 

 

 各種キーワード、地図などの提示資料などについては、別途「資料」としてまとめてあります。シナリオを回す際には此方もご参照ください。⇒雨の降る街:資料ページへ

 

 

KP向けあらすじ

 探索者の住む町では梅雨入りした頃から、行方不明者が複数発生していた。3人目の犠牲者であるフリーカメラマンの坂巻 茜(さかまき あかね)という女性の行方を追って、探索者たちは「雨男」の噂を調べることとなる。

 調査を続ける内に、探索者達は実際に噂通りの黒ずくめの男、「雨男」に遭遇する。更に同時に、水溜まりから現れた黒い不定形の異形にも襲われる。この異形、バグ=シャースこそが行方不明者の原因であり、雨男の正体はかつて、このバグ=シャースを封印しようとして共に封印の中に魂を囚われてしまった青年、稲見秀三だったのだ。

 公園にある秀三の制作したオブジェにこの封印の術式が刻まれていたが、それが破壊されたことにより封印が不完全になり、水鏡を通して現実に姿を現せるようになったバグ=シャースが人々を襲い、秀三はそれをどうにか止めようとバグ=シャースと共に姿を見せていた。

 稲見秀三の正体を知ることで彼と対話ができるようになった探索者は、過去に起きた事件を知り、再びバグ=シャースを封印するため、オブジェに刻まれた術式の修正を試みることになる。

 或いは、秀三との対話が叶わなかった場合、秀三の孫である由宇から、代わりにかつて嫉妬からバグ=シャースを召喚してしまった秀三の友人・木嶋について聞かされ彼の住居跡から魔術の情報を得ることになるかもしれない。

 いずれにせよ、事件を解決するためには、バグ=シャースを再度封印するか、秀三に掛かっている守護の呪文を解除して、本来の標的であった秀三を喰らわせることでバグ=シャースを満足させ、住処である異次元へ帰らせるかのどちらかが必要である。

 バグ=シャースに対処し、犠牲者をこれ以上出さないようにすることが本シナリオの目的である。

 

 

 

シナリオの大まかな流れ

大まかな目的:行方不明の元凶を突き止め、バグ=シャースを封印または退散させる。

 

●導入      坂巻茜の行方不明について調査を開始する

 

●坂巻自宅   「雨男」の写真を見る

●出版社    「雨男」の噂の詳細を知る

●嵐山自宅   「雨男」の情報を聞く

 

●街中      雨男に遭遇する

 

●公園      オブジェを発見・稲見由宇と出会う

 

●稲見邸     稲見秀三について知る

 

●街中      雨男と遭遇する(対話した場合はA/しない場合はB)

 

 

A(秀三/再封印ルート)

●稲見邸     バグ=シャース封印の方法を知る

 

●公園      バグ=シャースを再封印

 

B(木嶋/退散ルート)

●稲見邸     木嶋について知る

 

●木嶋邸跡    「守護の呪文」の解除方法を知る

 

●街中      守護の呪文を解除し、雨男をバグ=シャースに食わせる

 

 

 

シナリオ背景

 全ての発端は、才能ある芸術家であった稲見秀三に対して、友人である木嶋憲武が嫉妬に駆られ、秀三を殺す為にバグ=シャースを召喚してしまったことに起因する。数十年前、二人は元々は良き友人同士であったものの、自分よりも才能に溢れ成功している秀三を妬んだ木嶋はたまたま手に入れてしまった魔導書を読む内に徐々に正気を削られ、ついにグレート・オールド・ワンであるバグ=シャースを召喚してしまう。バグ=シャースは一度現世に現れると、生贄として捧げられた標的を殺すまで決して帰ることはない。木嶋は秀三を標的にするも、本人も呼び出したバグ=シャースに殺されてしまう。魔術の知識も有していた秀三は木嶋の凶行を予見しており、自らを襲いに来たバグ=シャースを自身の作品であるオブジェに刻んだ魔法陣に封印しようと試みる。しかしバグ=シャースの抵抗により自身の魂も共に封じ込められてしまったのだ。

 時は流れ、現代になってそのオブジェはひかり公園に安置されている。しかし若者の悪戯によってオブジェが破損し、魔法陣が欠けたことで封印が不完全になり、バグ=シャースが雨の日の水溜まり、水鏡を通じて現世に現れるようになってしまう。同じく封印されていた秀三はどうにかバグ=シャースが人を襲うのを止めようと後を追って現世に姿を現すが、魂のみとなった姿ではどうすることもできず、その姿が結果的に「雨男」の噂となって広まっていった。また、秀三は生前、バグ=シャースに対抗すべく「守護の呪文」を使用していたためにバグ=シャースの標的にならず、奇しくもその為にバグ=シャースは現世にとどまり続けている。

 長らく魂のみで封じられていた秀三は自身の自我も失いかけていたが、名前を呼ばれることで本来の人格を取り戻し対話が可能になる。探索者たちと対話すれば、彼は自身の屋敷に隠された魔導書について話し、バグ=シャースの再封印を願うだろう。

 また、秀三に掛かっている守護を解きバグ=シャースに食わせることでも、事態の対処が可能である。秀三は自身がバグ=シャースの標的になっている為にそれがいつまでも退散しないことにまでは思い至っていないが、彼を食わせればバグ=シャースは満足して元居た次元へと帰ってゆくのである。

 

 

 

主要NPC

坂巻 茜(さかまき あかね) 行方不明のフリーカメラマン

性別:女 年齢:25

 

 2日前に行方不明になったフリーカメラマン。オカルト好きでその手の噂にも詳しく、そういった類の雑誌記事に写真を提供することが多い。好奇心旺盛で行動的な女性。

 

 

 

湯川 真也(ゆかわ しんや) 歴戦のオカルト記者

性別:男 年齢:39

 

 HO2と同じ出版社に勤める雑誌記者。オカルト話を追うことに余念がなく、探索者たちが雨男の噂を追うと知ると、雨男に実際に遭遇した友人の嵐山を紹介し、調査結果を知りたがる。粗雑な印象の胡散臭い中年。

 

 

 

嵐山 蓮司(あらしやま れんじ) 被害者サラリーマン

性別:男 年齢:39

 

 雨男およびバグ=シャースに遭遇した被害者。共に居た友人がバグ=シャースに食われ、本人は命からがら逃げだした。その後は雨を恐れ、休日は自宅に引きこもり続けている。

 

 

 

稲見 由宇(いねみ ゆう) 芸術家の孫

性別:男 年齢:23

 

 稲見秀三の孫である青年。祖父の作品をいたく好いており、祖父が生前住んでいた邸宅にも入り浸っている。邸宅が綺麗なまま保たれているのは彼が管理しているため。穏やかな性格で、祖父譲りの度量のためか神話的な事件に関して探索者が語っても比較的すんなりと話を信じてくれるだろう。

 

 

 

稲見 秀三(いねみ しゅうぞう) 雨男の正体

性別:男 享年:28

 

 数十年前を生きた芸術家。本シナリオにおいて度々現れる「雨男」の正体でもある。

 友人である木嶋が邪神を召喚したことに気づき対処を試みるが、バグ=シャースを封印する代わりに自身も共に封印の中に引きずり込まれてしまう。

 長らく魂だけの状態だった為に自我が希薄になっているが、名前を呼ばれることで本来の人格を取り戻す。バグ=シャースが人々を襲うことを阻止したいと願っており探索者に協力を申し出る。

 

 

 

木嶋 憲武(きじま のりたけ) 嫉妬に狂った芸術家

性別:男 年齢:28

 

 秀三の友人であり、かつてバグ=シャースを召喚した事の発端。実直な男であったが志した芸術の道が思うようにいかず、そんな自分を尻目に成功を収める秀三への嫉妬に狂い、奇しくも秀三の蔵書の中で目にした魔導書を読んだことから狂気に憑りつかれ、バグ=シャースを召喚し秀三を殺させようと試みる。召喚時に自身もバグ=シャースの餌食となってしまった。

 

 

 

◆敵性NPC

 

バグ=シャース マレモンP.233

※不完全ながら封印されているため、マレモン記載よりステータス弱体化あり

 STR20 DEX10 SIZ20   HP:55

装甲:なし。ただしあらゆるダメージは1に軽減される。

目撃による【SANチェック】1/1D6

 

覆いかぶさる 60% ダメージ1D6

 

 木嶋によって召喚されたグレート・オールド・ワン。生贄に指定された秀三を喰い殺そうとしたところを封印されたが、その際に秀三自身をも封印の中に引きずり込んだ。

 封印が破損したことで不定期に、封印されたときと同じ雨の日にのみ、水溜まりの鏡面を通じて現世に出現できるようになった。光に弱いため日のない強い雨の中、暗い路地などにのみ現れる。

 

 

 

シナリオ本文


シナリオ本文の読み方

 

 

・地の文…KP向けの状況説明および処理に関する記述など、シナリオ本文のメイン部分です。適宜目を通しながら進行してください。

この背景色で括られている箇所はPLには非公開のKP向け補足説明です。
KPが状況を把握する為の情報なので、基本的にPL及び探索者には公開しません。

 

・読み上げ文…情景描写の文章、もしくは文章媒体での情報の内容です。この文章はそのままPLへ向けて読み上げ・提示を行って構いません。

 

 

・ダイスロール文…SANチェック及び各技能などの処理です。技能のダイスロールについては、”※強制”の記述がない場合振れる技能の提案の有無などはKPにお任せします。


1.導入

 HO1とHO2に面識がない場合、HO2が坂巻の友人であるHO1に聞き込みに行くシーンから開始すると良い。面識がある場合、共に彼女の行方を調べるシーンから開始して良い。

HO3がいる場合、HO1/HO2のいずれかが調査同行を依頼するシーンを挟むと良いだろう。

 

 全員で調査を開始する準備ができたら、以下を提示する。

 

 

 本日は6月15日。梅雨入りして以来ずっと空模様は荒れており、今も雨こそ降らないものの、昼過ぎだというのに空は黒く厚い雲に閉ざされている。昼間だというのに薄暗い陰鬱な街で、貴方たちは尋ね人を追うことになる。

 

 探索者たちは友人として、あるいは仕事として、共に坂巻 茜の行方を追うことになる。調査対象である坂巻について、及び「雨男」「行方不明」の噂については技能なしで下記を提示する。

 

▼坂巻 茜について

 27歳女性。フリーのカメラマンで明朗快活な性格。オカルトや都市伝説が好きで、そういったテイストの雑誌への写真提供等が多い。

・「雨男」の噂の雑誌記事に写真提供予定だった

・アパートで一人暮らし

・2日前から消息不明

 

 

▼雨男について

「雨の日にだけ現れる黒ずくめの男で、捕まるとあの世へ連れていかれてしまう」というオカルト話。

・この街で今月に入ってから流れ始めた噂

・実際に見た、という書き込みがネットで散見される

 

 

▼行方不明について

・この街では坂巻以前にも二人、今月に入ってから行方不明者が出ている

・一人目はサラリーマンで、友人との帰宅途中に忽然と行方を眩ませる

・二人目は大学生で、休日に出掛けたきり行方が分からない

 

 

 以上の情報を踏まえて、自由に探索を開始する。行き先に迷う場合は、以降の項目にしたがって適宜KPから探索箇所を提示しても構わない。

 

 

2.坂巻自宅

 坂巻はアパートの一室に住んでいる。友人や同僚である探索者が大家に頼めば、部屋を開けてもらえる。また、大家から得られる情報は以下。

 

 

「2日前から姿が見えなくて、それで昨日、私が警察に通報したんですけどね」

「3日前、坂巻さん宛の宅配があって預かっていたんです。2日前の朝それを伝えたら、夜帰ったら引き取ります!って言ってたんだけどねえ、結局来なくて……」

「昨日の朝も姿が見えないでしょ。毎朝必ず挨拶して出掛けていくのに……それで心配になって通報を」

 

 

 

■室内

 女性の住まいにしてはこざっぱりとしていて些か殺風景だ。リビングには特に変わった様子はない。寝室にはベッドの他に本棚やデスクがあり、私室として使われていたようだ。

 

<探索可能箇所>

本棚/デスク

 

 

▼本棚

 著名な写真家の写真集や撮影技法に関する専門書と共に、ホラー小説やオカルト雑誌も並んでいる。

 

【図書館】or【オカルト】

HO2が担当しているオカルト雑誌が、全巻きっちりと並んでいる。つい先日出たばかりの最新号には雨男に関する記事が書かれている。

 (HO2が居ない場合は単にオカルト雑誌と表記する)

 

・雑誌記事:雨男の噂

 

「 梅雨入りし、毎日のように雨が降り陰鬱な雲が空を閉ざす日が続いている。そんな中、雨音に誘われるようにこの街でにわかに囁かれはじめた噂をご存じだろうか……。

 

 雨の日には雨男が来る。

 

 それはよくある噂話の定型文だが、単なる在り来たりな怪談話ではない。これから書くのは、筆者の友人から聞いた衝撃的な事実である。A氏はその日、駅前のバーで友人と飲んだ後、二件目を探し求める内に知らず知らず狭い裏路地へと迷い込んでしまった。さあさあと降り注ぐ雨を掻き分けて路地の奥へと進んだときだった。A氏はふと、雨音に紛れる足音が自分のものと、友人のものと、もう1つあることに気づいたそうだ。雨の降る路地裏、そう人通りが多いわけではない。何となく気味が悪く思えて足を止めて振り返ると、そこに足音の主がいた。

 

 それは真っ黒い外套に身を包んだ、背の高い男だったそうだ。

 

 男は湿った足音を立てながら、A氏に一歩、また一歩と近付いて来る。生気のない白い顔に落ち窪んだ目で、じいっとA氏を睨みつけている。何だか恐ろしくて、友人を振り返ったちょうどそのとき。

 

 悲鳴が聞こえて、そして振り返った先に友人の姿はなかったのだ。視界の端でただ、黒い水が跳ねるような飛沫が見えて、A氏は本能的な恐怖でその場から駆け出したそうだ。

 

 A氏の友人は今も行方が分からない。我々は、この雨の日の奇妙な出来事とまことしやかに囁かれる噂は、恐ろしい真実で繋がっていると考える。次号では必ずや、その真実に迫るレポートをお伝えするだろう。

 

待て!次号」

 

 

※HO2にのみ提示

 この記事は貴方の上司である湯川が書いたものだ。これを受けて、次号の調査記事を貴方が書く予定だった。A氏については詳しく聞かされていないため分からない。

 

 

 

 

▼デスク

 ノートパソコンが置かれている。

 

・ノートパソコン

 特にロックは掛かっておらず、電源をオンにすれば画面が表示される。仕事用のものだろうか、写真のデータがデスクトップに大量にフォルダ分けされてしまわれている。

 

【図書館】

 まだ整理されていないフォルダから、三日前に作られた写真のデータを見つける。

 

・写真データ

 どれも雨の降る街を撮ったものだが、それらに見覚えがある。同じ裏通りで撮られたものだろう。狭い路地、空を反射する灰色の水溜まり、軒先から大粒の雫が溢れ落ちる様。どれもがくすんだ色味で、どこか不気味な雰囲気を醸し出している。

 土地勘のある貴方たちは、写真を見て具体的な場所がわかるだろう。繁華街から少し離れた人気のない通りだ。

 

【目星】

 写真の中の水溜まりに目が留まる。水面に、逆さまに地面を踏む黒い足が映っている。しかし水溜まりの近くには誰もいない。ぬっとした黒く長い足が、水鏡の向こう側にだけ映っているのだ。

 

【SANチェック】0/1

 

 

 

 また、デスクトップにはメモファイルが置かれている。

 

・メモ

『行方不明は6月から

稲見家 取材してみる?→予定調整』

 

 

 

3.出版社

 坂巻やHO2の職場。雨男の記事についてや坂巻について聞く場合、HO2の上司である湯川に話を聞くことになる。

 HO2がいれば自動成功で話を聞けるが、いない場合、【信用】【説得】に成功する必要がある。ただしいずれの場合でも、坂巻の行方を追っていること、そのために情報を知りたいことを伝えれば技能ロールに成功しなくても湯川は喜んで話を聞いてくれるだろう。

 

 通されたのは来客用のソファが置かれた一角だ。ついたての向こうでは書類が山になって積まれたデスクや、その合間で忙しなくキーボードを叩く人々の姿が見える。

「それで、すんません、なんでしたっけ」

 湯川と名乗った男はひどいくせっ毛をがしがしと掻きながら、対面に座って貴方たちを見る。分厚い眼鏡の奥の目には深いくまが刻まれている。

 

 

・行方不明、雨男について訊ねる

「あー、その話ね!やっぱり気になりますか!」

 湯川は眼鏡の分厚いレンズ越しにぎらりと目を輝かせた。少し饒舌に言葉を弾ませる。

「あれは僕の友人から聞いた話なんですがね、ただの怪談じゃあないですよ」

「ここ暫くの行方不明。ともすれば全員、雨男の犠牲になっててもおかしくない」

「これは長年この手のものを追いかけてきた僕の勘ですがね、雨男は本物です。友人の話を聞いたときに確信しましたよ。坂巻さんも、気の毒に、捕まっちまったのかも分からんですねえ」

 

・友人について

「ああ、皆さんは坂巻さんを探してるんでしたねえ」

「僕としても彼女のことは心配ですし、何より、雨男の記事と写真は必要ですから」

「友人は嵐山と言います。嵐山蓮司。今日は仕事も休みだから、家にいるんじゃないかな」

 

 

 

 湯川は嵐山の住所と電話番号を教えてくれる。出版社からもそう離れていない場所だ。

 

(HO2が居る場合)

「引き続き頼むよ? 消えたカメラマンと雨男の真実! 素晴らしいテーマだ、無事ものにしてくれよ」

 

 

・話が終わったら

「ねえ、もし雨男について何か分かったら連絡くださいよ。きっと何か力になれますから」

 湯川は念押しするように両手を合わせて、にっと笑う。

 

 

 

4.嵐山宅

 嵐山はアパートの一室に住んでいる。チャイムを押せば、少ししてから扉が開き、人の良さそうな男性が顔を覗かせる。探索者たちが湯川の名前を出したり、行方不明の友人について訊きたい旨を伝えれば、嵐山は快く探索者たちを招き入れる。事前に電話をかけた場合も同様。

 

 

・友人について

「ご存じですよね、ニュースでもやってる……」

 

 嵐山が挙げた名前は、今月頭に行方不明になった一人目の被害者だ。

 

「あの日、彼と一緒に路地を歩いてたら、あの男が現れたんです。真っ黒で背の高い、不気味な男が、気づいたらすぐ後ろに……」

「恐ろしい顔だった。まるで、し、死んでるみたいに真っ青な顔で……目があった瞬間、ヤバいと思ったんです」

「それからは記憶が曖昧で……その男が何か、言ってたのかな、口を動かしてて、気付いたときにはもう友人はどこにも居なくて……」

「それで男が、何か言いながら近づいてきたから、ヤバいと思って必死に逃げて……」

 

 

・黒い水について

「ああ、そういえば……」

「そうだ、友人の悲鳴が聞こえて、振り返ったんだ」

「一瞬、何か……そう、黒い塊が見えたんです!それから、ごぼごぼ言う、溺れるみたいな音……」

 

 

・現場について

「気味が悪くてずっと避けてますけど、駅前から一本奥に入ったところなんで、すぐわかりますよ」

 

 そう言って嵐山は現場を教えてくれる。そう時間が掛からず徒歩で向かえる駅前だ。

 

 

 

5.街

 坂巻の写真に写っていた路地と、嵐山から聞いた友人の行方不明現場、どちらでも同じイベントが発生する。

 

 しとしとと降り続いていた雨は徐々に雨足を増し、絶え間なく傘を叩く。日差しもなく薄暗い路地は人の姿もなく、貴方たちの足音と雨の音だけが響いていた。

 周囲に目を凝らしてみても、姿を消した人々の痕跡はどこにも見当たらない。

 

【聞き耳】

ぴちゃん、と水の跳ねる音が背後から聞こえた。

 

 足を止めた貴方たちの後ろから、音が聞こえる。誰かが水溜まりを蹴る足音だ。降り続く雨が傘や地面を叩く中、その音はやけに耳についた。

 振り返ればすぐに、その音の主が目に映る。男だ。背の高い、黒い外套に身を包んだ男が、路地の壁に寄り添うようにぬうっと立っている。それは想像したままの姿だった。傘も指さずに立つ男の髪はぐっしょりと濡れ、生気のない白い頬に張り付いている。丈の長い外套は水を吸って、元の色より更に重い濡れ羽色に沈んでいるようだった。落ち窪んだ目がじいっと、こちらを見ている。

 男が口を開いた。薄い唇が何かを紡ぐが、それは雨音に阻まれて聞き取れない。男は不明瞭に唇を動かしながら、一歩、また一歩とこちらへ近付いてくる。そして男がゆっくりと片腕を持ち上げて、骨張った手を貴方たちの方へとかざした、その瞬間のことだった。

 

【1D100】※出目がもっとも大きかったPCを対象に下記を描写

 

 ずるりと、湿った音がする。見れば(PC名)の足首に、黒い何かが絡み付いていた。それが何かを目で辿ろうとした瞬間、その塊は震えながら一気に体積を増す。人一人を軽々と包み込んでしまいそうな巨大な黒いゲル質の塊が、突如として現れ、(PC名)に覆い被さろうとしているのだ。

 

【SANチェック】1/1D6

 

 

対象は【DEX*5】

(成功)

 間一髪のところで身を捻り、咄嗟に飛び退る。黒い塊がアスファルトに勢いよく覆い被さり、びしゃんと大きな音を立てて黒ずんだ水飛沫が飛び散った。

 

(失敗)

 勢いよく覆い被さってきた黒い塊が全身を包む。半液状のそれは顔全体を覆うように容赦なく絡んできて、息ができない。

 

 

 失敗した場合、他の探索者は助けるために【STR25】との対抗を行える。これは複数人で協力して行って良い。

 

(成功)

 もがく腕を掴み、無我夢中で引く。ひどくぬかるんだ泥から引き抜くようにひどく力が必要だったが、漸く、ずるりと音を立てて(PC名)の体は黒いゲル質から引きずり出された。

 

(失敗)

 必死に腕を引くが、黒い塊に沈み込んだ体は思うように動かない。息が苦しい。呼吸をしようと喘いだ口から、ごぼり、と気泡が零れた。

 尚ももがき続けていると、不意に黒い塊の締め付ける圧が弱まり、(PC名)の体は漸く解放された。

 

 対象PCはHPを成功で1、失敗で1D3減らす。

 

 

▼逃亡

 振り返れば、黒い飛沫が視界の端に跳ねた。あのおぞましい塊はもう何処にも居ない。ただ、アスファルトに横たわる水溜まりの水面が黒く濁って澱んでいた。それも見る間に、インクが溶けるように薄まって、ただ凪いだ水溜まりに戻ってゆく。

 気付けば雨は上がり、雲の切れ間から日が差し込んでいた。

 

 

 

6.湯川への報告

 雨男との遭遇後、湯川に電話するのであれば、彼はすぐに電話に出る。探索者が連絡を取ろうとしない場合は、湯川から進捗があったか確認する連絡を入れても良い。

 

「もしもし。お、それで調査はどうですかね」

「なんだってぇ!? 雨男を見た!?」

「そりゃ、是非詳しい話を聞かせてくださいよ!ウチに……いや、今どこです? 近場の喫茶にしましょう、すぐ行きますよ!」

 

 駅前の喫茶店にて、湯川と落ち合うことになる。湯川は興奮した様子で詳細を聞きたがり、本当のことを伝えれば何度も頷きながら夢中で聞き入る。嘘をついた場合、【心理学(80)】で気付き真実を伝えるよう促す。下記は台詞例。

 

「……なぁ~んか、嘘臭いですねぇ」

「いやなに、雨男に遭遇したのは本当なんでしょう。ただ、お話がね、作り物くさいんですよ。これは長年の勘ですが」

「ね、協力しましょうよ。本当の話、聞かせてもらえません?」

 

 不定形の怪物の存在などを伝えられても湯川は疑わず、「やっぱり本物か」「こりゃえらいことになってきた……」と興奮気味に呟く。ある程度湯川に真実を話した場合、下記のイベントが発生。

 

 

 

「異形の怪物を従え人を襲う雨男……どうやら、こりゃ本当にヤバい代物みたいですねえ……」

「……これは殆んど願掛けみたいなもんですが、皆さんにお伝えしましょう。よく見てください」

 

 湯川は注意深く全員を見回してから、指先で五芒星を描くような仕草をして見せる。そしてポケットから取り出した手帳のページを破り、今しがたの手の動きと、謎めいた暗号のようなひらがなを綴った。

 

「いいですか、奴にまた出会ったら、やばいと思ったらすぐこれを使ってください。魔除けの一種です」

 

 

・旧き星のまじない(オリジナル呪文)

 対象を目視した状態で、MPを1D3消費し、手の仕草と呪文の詠唱を行う。

 

 

 どこで知ったものかと訊ねると、湯川は「この仕事が長いと色々聞き齧るもんで」と笑う。

 

 

 

7.異変

 「6.湯川への報告」の後であれば街に出たところで、湯川との会話が発生していない場合は街中の移動中に、下記のイベントを発生させる。

 

 

「行方不明の人見つかったの?」

「え、見て何これやば」

「うわこれマジで?」

 横を通った女子高生たちが大袈裟に声を上げて話している。見ればスマートフォンでSNSを見ているようだ。

 SNSを開き、思い当たる言葉で検索をかける。すると随分簡単に、目当ての情報は出てきた。それはネット上の片隅でひっそりと騒がれているに過ぎないものの、それでも何人もが同じ話題を発信していた。

 

『行方不明の人達が暴動起こしてる』

『皆目がヤバくて警察とか来た!』

 

 添付された画像には、広場に建てられたオブジェに向けて鉄パイプのようなものを振り上げたり、装飾を蹴って破壊する三人の男女の姿が写っている。その内の一人は坂巻だと分かる。

 

 

 この3人はいずれも行方不明となっていた人物である。彼らはバグ=シャースによって殺され、死体として蘇って操られている。そのため、この後駆け付けた警察に保護され病院に搬送されるも、搬送先でバグ=シャースの干渉がなくなったことで活動を停止する。探索者が坂巻をはじめ行方不明者たちの安否を気にするのであれば、暫く時間が経ったところで「保護された3名は病院で死亡が確認され、しかも検死の結果既に数日前に死亡していたと考えられる」というニュースを知るだろう。

 

【アイデア】

(成功)

画像に写るオブジェに見覚えがある。写真の場所がこの街にあるひかり公園であると分かる。

 

(失敗)

画像に写るオブジェに見覚えがあるが、どこだか分からない。もう少し調べる必要がありそうだ。

 

 

上記【アイデア】に失敗した場合、引き続きSNSを調べる、人に聞いてみるなどして時間をかけることで稲見公園の場所を知ることができるが、時間経過により発生するイベントが少し変化する。【アイデア】に失敗した場合でも、「湯川に電話で訊く」など時間がかからず答えが分かるであろう提案をPLが行った場合、成功扱いで処理を進めて構わない。

 

 

 

8.ひかり公園

 街の外れにある広い公園だ。普段は閑静な場所だが、目を凝らした奥の方に人だかりができているのに気付く。

 

▼時間経過していない場合

 何人もの人がスマートフォンを構えて、写真を撮ったり、SNSに投稿したりしているようだ。その奥には例のオブジェがあり、規制線が張られている。傍らには制服警官が何人もおり、オブジェの付近を調べたりどこかに電話したりと忙しなく動き回っている。

 

▼時間経過している場合

 破壊されたオブジェの周囲には規制線が張られ、まだ警官が一人残っている。付近を通る人々はちらちらと横目でその様子を気にしているようだ。

 

 

・オブジェについて(共通)

 

 オブジェは2mほどの高さの塔のような形をしている。至るところに緻密な紋様が刻み込まれ、正面には大きな五芒星が描かれているが、意図的に削り取られたのだろうか、掠れてしまっていた。

 ほかにも所々凹んだりパーツが折れて地面に転がったりしているのが分かる。

 オブジェの前には看板が建てられており、オブジェの概要が書かれているようだった。

 

『太陽の楔 1958 稲見秀三』

 

 

【目星】

オブジェの正面には窓枠のようなフレームがついていて、色とりどりのガラスが部分的に残っている。元はガラスがはまっていたのだろうか。

地面を見回してもガラスの破片は見当たらない。

 

 

▼聞き込み

 警官や周囲の人だかりに声をかけた場合、下記の情報がわかる。ただし★のついた情報は「時間経過していない」場合にのみ聞くことができる。

 

・三人の男女がやってきてオブジェを破壊しはじめ、騒ぎになった

・三人は今月になって行方不明になっていた被害者たち

★三人はぼんやりした様子で心ここにあらずだった、動機も目的も言わずただ暴れていた

 

 

 

▼稲見青年

 一通り探索を終えると、一人の陰気な青年が壊れたオブジェの前に佇んでいることに気付く。目が合えば青年の方から声をかけて来る。

 

 

「随分ぼろぼろにされてしまって……何故こんなことをするのでしょう」

「作り手の魂ごと踏みにじっているのと同じですよ」

 

「以前にもこのオブジェ、壊されかけたことがあったんです。大学生が酔った勢いで、悪ふざけでガラスを割って」

「ちょうど今月のはじめのことです」

 

「申し遅れました。僕は稲見由宇(ゆう)と言います。このオブジェを作ったのは、僕の祖父なんです」

 

 由宇は祖父とその作品を愛しており、それが傷つけられることに心を痛めている。オブジェなどについて訊ねるのであれば、知っていることを話してくれる。

 また、坂巻の名前も知っており、それについても訊かれれば答える。

 

・稲見秀三について

「僕の祖父です。と言っても、父が生まれてすぐに行方不明になってしまったそうですが。」

 

・オブジェについて

「祖父は芸術を好む人だったそうで、太陽の楔は祖父が行方不明になる直前に突然作ったものだそうです」

 

・坂巻について

「坂巻さん……ああ、ちょうど四日ほど前に、お電話をいただきました。その方も太陽の楔について話を聞きたいと仰ってましたが……まさか行方不明になるだなんて。見つかって良かったですが……」

 

・雨男について

「ええと、そんな噂があるのはなんとなく。詳しくは存じ上げませんが……坂巻さんも、その話をされてました」

 

 

・一通り話をしたら

「坂巻さんには、祖父の屋敷でお話する約束をしていました。もしよろしければ、いらっしゃいますか?」

 

 

 

9.稲見邸

 由宇と会話後に訪れることができる稲見家の屋敷。

 

 町外れにある大きな屋敷だ。高い塀に囲われた建物の外壁は色褪せ年季こそ入っているものの、それすら風情を感じさせるような風格がある。あまり見慣れないような大きな洋館に、稲見は慣れた様子で足を踏み入れた。

「祖父の失踪後はずっと誰も住んでいないんですが、僕はここにある美術品を見るのが好きで、子どもの頃からよく入り浸っていました」

 彼は話しながら貴方たちを客間へ招き入れた。この部屋は彼が普段から使っているのだろうか、埃もなく清潔に整えられている。上質そうな革張りのソファや壁に固定された燭台型の照明は古いものなのだろうが、元々の質の良さが感じられる。

 

 

「僕の祖父、稲見秀三は資産家でしたが、芸術にも造詣が深く世界各地の芸術品を集めたり、自身で作品を制作したりもしていて、芸術家としても成功していたのだそうです。公園にあるオブジェ……太陽の楔も、祖父が突然あの場所に建てると言い出したものだそうです」

 

「僕の父がまだ赤子の頃に祖父は行方をくらませてしまったそうで、どんな人だったのかは僕もほとんど聞いたことがありません……。ただ、ここは生前祖父が籠っていた、アトリエも兼ねた屋敷です。皆さんのご期待に添えるかは分かりませんが、ここには祖父の全てが残っています」

 

「主には一階のアトリエスペースに祖父の作品類は集められています。それから、二階には生前使っていたらしい私室があります。作品を傷つけたりしないようにしていただければ、あとはお好きにご覧になってください」

 

 

■アトリエ

 広々とした部屋は壁中に絵が掛けられており、まるで美術館のようだ。室内にも彫刻などが疎らに置かれ、床に敷かれたシートは絵の具かなにかの褪せた色がこびりついている。

 

▼絵

 古めかしい町並みの様子が油彩で描かれている。

 

【歴史】

 大正頃の町並みのように見える。当時の風景を描いたのだろうか。

 

【目星】

 写実的に書かれた町の絵の中、遠景に巨大な影が描かれているのが目に留まった。空を覆うような黒い人型は、リアルな町並みの様子に対してやけに浮いて非現実であるにもかかわらず、まるで本当にその場にいるかのような重々しさを放っている。

 よく見れば他にも、そういった現実離れした怪物が描かれた絵が何枚もある。風景画に紛れて怪物自体を大きく描いたような抽象画も飾られており、描き手の嗜好が窺える。

 

 

▼彫刻

 木彫りの小さな動物から、1m以上ある金属の彫像まで、様々なものが疎らに並んでいる。かなり幅広く創作活動を行っていたようだ。

 

【オカルト】

 五芒星や、星の並びを描いた装飾が作品の至るところに散りばめられている。呪術的な意味合いのあるものを意図的に採り入れているのではないだろうか。

 

【目星】

 「太陽の楔」によく似たオブジェを見つける。せいぜい数十センチ程度の高さであることを除けば、公園で見たものとそっくりそのまま同じ形だ。

 正面にはガラスの嵌め込まれた部分がある。色とりどりのガラスが組み合わさって、複雑な模様を形作っている。

 

 

 

■私室扉

 扉を開けた途端、埃っぽい空気が気管に飛び込んでくる。整頓はされているが物が多く、狭苦しい印象を受ける部屋だ。内装は古めかしく、数十年前に主人を失ってからは大きく動かされていないのだろう。それでも多少の埃を吸う程度で済んでいるのは、由宇が律儀に掃除を欠かさないためなのかもしれない。

 

〈探索箇所〉

机/本棚

 

 

▼机

 整頓された書き物机だ。埃もなく、まるでつい最近まで使われていたかのように、古めかしい万年筆や鉛筆類が立てられている。

 机上の端には写真立てに入れられた写真が飾られていた。色褪せたセピアの写真の中では、若い男が二人、仲睦まじそうに並んでいる。一人はやや長めの髪の間から精悍な瞳を覗かせ微笑んでいる。もう一人の短髪の男は彼と肩を組み、大きく口を開けて笑っている。友人同士だろうか。

 

【アイデア】

 写真に写る大人しい方の男に見覚えがある。似ているのだ。先程垣間見た雨男の相貌と似た面影がある。

 

・由宇に訊ねた場合

「その写真のこちら、この静かそうな人が祖父です」

「隣は……確か、祖父の親しい友人だと、祖母から聞いたことがあります」

「祖父が失踪する少し前に亡くなったそうですが……」

 

この友人、木嶋憲武こそがバグ・シャースを召喚した張本人である。木嶋は秀三とは学生時代からの親友同士であったが、嫉妬心を膨らませてついには秀三への身勝手な復讐に走ってしまった。写真はまだ仲が良かった頃のもの。

 

 

 

▼本棚

 古めかしい書籍がいくつも並んでいる。昭和頃のもののようだ。一見して、芸術に関する専門書が多いように見える。

 

 

【目星】

 本棚と床の間に古びた紙が一枚挟まれている。手書きのメモのようで、すっかり掠れていて文字は読み取れないものの、幾何学模様のような図形のスケッチが書き込まれているようだ。

(アトリエで目星に成功している場合)

 その形状は、アトリエで見た小型の塔のガラス装飾によく似ている。

 

【日本語】

 メモの文字を部分的にではあるが読み取ることができる。

「無数の目と口を持つ漆黒の暗闇」

「光を嫌い、日光の差さぬ間に人を食らう」

「力の五芒星を基とした結界で封じる」

 

 

 

 一通り調べ終えたら夜時間となる。由宇はもし何かあれば明日も来ていいと声をかけ、連絡先を渡してくれる。

 

 

 

10.夜道

 稲見邸からの帰り道に発生するイベント。

 

 

 いつの間にかすっかり日が落ちていた。暗くなった街は相変わらず降り続く雨に包まれている。人気のない夜道を歩く姿は貴方達の他になく、水を蹴る足音ばかりが雨音に混じって響く。

 

 慣れない場所からの道だったからか、気付けば細い路地に入り込んでいた。頼りなく明滅する街灯に照らされ、濡れたアスファルトが鈍く光る。

 

【聞き耳】

 

(成否問わず共通描写)

 ばしゃり、と音がする。

 振り返れば、しとしとと降り続く雨粒の向こうにそれは居た。

 闇に溶け込むような漆黒の外套に身を包み、青白い顔だけがいやに浮いている。鬱屈とした空気を纏うその男が、「雨男」が、此方を見ていた。

 その空洞のような眼と視線が交わる。

 

(聞き耳成功なら下記を挟む)

 ばしゃり。

 再び水音が聞こえる。先程より大きなそれは、雨男を振り返った貴方たちの背後から聞こえた。

 巨大な"何か"がそこにいる、と感じる。

 

(共通描写)

 その瞬間、暗がりに佇むだけだった男が不意に目を見開いた。長身がゆらりと揺れ、路地の陰から歩み出たそれはすうと腕を伸ばす。闇色の外套の裾が揺れ、青白い大きな手が伸びてくる。

 

 

 

 PLに行動宣言を確認する。想定される分岐は下記。

 

・逃げる

・旧き星のまじないの呪文を雨男に唱える

旧き星のまじないの呪文を背後の異形に唱える

・攻撃する

 

 

▼逃げる

 貴方たちは雨男目掛けて駆け出し、その隣を走り抜ける。ぬうっと伸ばされた腕の動きは緩慢で、貴方たちを捉えることはない。そのまま脇を抜け、路地から離れる。

 背後でばしゃん!と大きな音がした。

 思わず振り返れば、雨粒越しに暗い路地の光景が目に映る。

 そこにいたのは、巨大な"何か"だった。黒い不定形が3mほどに伸び上がり、狭い路地を塞いでいる。ぐにゃりと歪むゲル状の暗黒には、無数の巨大な目がついていて、それらが忙しなく蠢いているのが遠目でも分かった。膨れ上がったそれに対峙するように、雨男の背中が見える。

 それらがこちらへ来る前に、貴方たちは前へと向き直り、走ってその場から離れるだろう。

 

 

▼呪文を雨男に唱える

 貴方たちは湯川に教えられた呪文を唱える。指先で星を描き、その手を雨男へと向けた。

 その瞬間、雨男はこちらへ近づこうとしていた足を止め、身悶えするようにその長身を激しく揺らした。青ざめた顔を同じく生気のない白い手で覆い隠し、その場で激しく震え出す。かたや、反対側ではあの異様な気配がじわりじわりと自分たちに近付いてきているのを感じた。それは尚も止まらない。このままこの場に残れば危険だ。

 貴方たちは雨男目掛けて駆け出し、その隣を走り抜ける。

 そのまま路地から飛び出し、その場を離れた。

 

 

▼呪文を背後の異形に唱える

 貴方たちは湯川に教えられた呪文を唱える。指先で星を描き、振り返った先、黒い異形へその手を向けた。

 その瞬間、異形が激しく震え上がり、おぞましい呻き声のような音がその全身から響き渡った。それはどうにかこちらへ迫ろうとして、思うように動かないといった様子だ。

 ぴちゃり、ぴちゃりと、水を打つ足音が響く。貴方たちの脇を抜け、揺らぐように虚ろな長身が前に出る。その先にいる黒い異形が、まるでそれに呼応するように大きく波打った。じわじわとそれは震え、何かに押し込められるように全身を伸縮させ、そして徐々に縮こまってゆく。いや、よく見ればその異形は、地面に広がる大きな水溜まりへと潜り込んでゆくようだった。

 やがて薄暗い水面、ごく薄いはずのその表面に黒いゲル状の怪物はすっかり飲み込まれ、とぷん、と沈み込んだそれは跡形もなく消えてしまった。

 

 後にはただ、貴方たちと、雨男だけが残った。

 雨男はゆっくりと振り向くと、何か言いたげにじっと見つめてくる。

 

 

 ■対話

 

 

▼攻撃する

 バグ・シャースとの戦闘に移行するため、推奨しない。戦闘開始後もPLが望めば、自由に逃走を行えて良い。

 雨男は戦闘に参加はしないが、望めば攻撃対象にすることも可能。物理的なダメージで死亡することはないが、合計10点分のダメージを受けると姿が崩壊して消滅する。

 

 

 

■対話

 異形に対して呪文を唱えて追い払った場合。

 

 雨男は、虚ろな瞳で貴方たちを見ている。全身を覆う丈の長い外套は古めかしく、そこから覗く肌は青ざめている。まるで実体感がなく、それでいて異様な存在感を放つ男は、ただ雨に打たれながら貴方たちを見ていた。

 

※「稲見秀三」という名前を呼ぶまで、雨男は言葉を発さない。

 

 

▼名前を呼ぶ

 雨男は虚ろな表情のまま、じいっと、その穴のような漆黒の瞳で貴方を見る。

 そして、不意に薄い唇を開き、言葉を投げた。

「何故、その名前を」

 

 以降、「雨男」・稲見秀三と会話が可能。

 

 

・本当に稲見秀三か?

「ああ、そうだ」

 

・何をしている

「俺は、雨が降る間だけ、こうして居られる」

「雨が降ると、あれも好き勝手をしてしまうから」

「お前たちも、あわや殺されるところだ」

 

・『あれ』? あの化け物は?

「あれは、祟り神のようなものだ」

「自由になれば人を喰らい、そして満ち足りるまで決して消えることはない」

 

・何故そんな姿でここに居る?

「かつて、俺はあれを封じたのだ」

「その際に引きずり込まれ、俺自身も同様に封じ込められる羽目になってしまったが……」

「しかしそれが、破壊されてしまった。今や封印は不完全だ」

 

・どうにかできないか

 または一通り話が済むと、秀三の方から話を切り出す。

 

「……あれは、これからも人を喰らい続けるだろう」

「俺は、最早大した事は出来ぬ身。人々と言葉を交わすことすら儘ならない」

「お前たちに頼みがある。俺の屋敷に、あれに関する書物がある。あまりに禍々しい、呪われし秘書ではあるが……。そこには再度、あれを封じる術も記されているはず」

「無関係なお前たちに頼むのも心苦しいが、俺に代わってあれを鎮めてはくれないだろうか」

 

「俺の部屋にある本棚には、ある仕掛けが施されている。一番下の、端から三番目にある西洋画の本を押し込んでみろ」

 

 

 

11.稲見邸再び

 雨男と対話している場合、本棚の仕掛けを作動させることができる。

 また、雨男と話していない場合は、由宇と木嶋に関する話をしていれば、「調べたところ、木嶋の住んでいた屋敷もまだ残っているらしい」と住所を教えられ、木嶋邸の探索が可能となる。

 雨男と対話せず、木嶋についても話していない場合はそれ以上手がかりがなくなってしまい、そのままエンドCに移行する。⇒エンディングへ

 

 

▼棚の仕掛けを作動させる

 

 言われた通りに棚の本を調べると、その本だけは棚に固定されていて引き抜くことができない。代わりに押し込んでみれば、重たい感触と共に本が棚の奥まで引っ込み、それと同時にがちんと大きな音が棚の裏から響いた。

 大きな棚が丸ごと、横に動くようになっている。それをどかした裏の壁には埃まみれの扉が一つ佇んでいる。

 

 扉の奥はごく小さな部屋だ。あるのは表より大分こじんまりとした本棚、そして机くらいのもので、そのどれもが長年使われていなかったのか、すっかり埃に埋もれている。

 

▼本棚

 小さな本棚はどこか異質な雰囲気を漂わせている。外国語で書かれた分厚い本や、反対に頼りない手書きで綴られたぼろぼろの写本、傍らには怪しげな光を放つ水晶玉が飾られている。

 いくつかを手に取ってみれば、それは妖怪の類の伝承をまとめた書籍や、呪術に関する手引き書のようだ。

 その中で一際目を引く分厚い洋書は見慣れない文字で書かれている。思わず誘われるように手を伸ばせば、その黄ばんだページの間には何枚かのメモが挟まっていた。

 

【ラテン語】

 表題には「エイボンの書」と書かれている。

 

 

・洋書(エイボンの書)

 異様な雰囲気を放つそれは、見慣れない言語で綴られていた。しかし幸か不幸か、そこに挟まっている古びたメモには、日本語でびっしりと書き込みがされている。恐らくは挟まれたページの内容をつぶさに読み解き、書き記したものなのだろう。

 そこには想像すら及ばない、別次元から来る恐ろしい怪物について記されていた。

 

「バグ=シャース

漆黒の暗闇とも言うべき、悍ましき怪物。この世ならざる遠い次元からやってくるこの存在は、無数の目と口で犠牲者を捉え、喰らい尽くす。この怪物は光を嫌い、闇の中でのみ犠牲者を襲う。あるいは、日の光が我らの身を守るかもしれない。しかし気を許してはならない。この混沌の使徒は人間の命令に従うことはない。この悍ましい使徒から身を守るには、防護の術を絶やしてはならないのだ。

唯一この悍ましい存在が人間の言葉を聞き入れるのは、こちらの次元へかの者を呼び出す際の贄を捧ぐときのみだ。贄として選ばれた者を喰らうまで、この闇の使徒は決して元ある遠い次元へ帰ることはない。」

 

 

 メモの後半に、「力の五芒星の封印」「守護の呪文」と書かれ、その下にそれぞれ細かな手順が刻まれている。具体的な手順は以下。

 

<力の五芒星の封印>

悍ましい怪物を遠い次元へ封じ込める呪文

・封印の礎となる場所に五芒星の封印を描く

・呪文を唱える

(コストはMP10 協力して支払うことも可能)

(封印を描くのに1R、呪文を唱えるのに1R)

 

<守護の呪文>

対象を悍ましい怪物に狙われないよう守る呪文

・対象を視認しながら短い呪文を唱える。自身にも使用可能

・逆から唱えることで既にかかっている守護を解くことができる

(コストはMP3、呪文を唱えるのに1R)

 

 

 上記メモを読んだ探索者は神話技能+1

 

 

▼机

 整頓され、使用された形跡が長らくない机だ。

 

【目星】

 本の類に交じって日記帳が一冊仕舞われているのを見つける。

 

・日記帳

「もうすぐ、港近くの会館で展覧会が開かれる。

昨年と同じように、俺と木嶋は共に作品を出すつもりだ。

夜通し奴と自身の創作について語らい、朝帰りして家族に叱られてしまった。

 

俺の絵を買い取りたいという画商が家へやってきた。

驚いた。なんでも、大学の教授が絵をいたく気に入ってくれたらしい。

趣味が高じた芸術が人に認められるのはなんともありがたいことだ。

木嶋には感謝しなければ。

 

木嶋は創作活動に行き詰っているようだ。

たまには息抜きをしないかと誘ったが、聞く耳を持たない。

生真面目はいいが、根を詰めすぎては心身に良くない。

 

木嶋の作業場に行くと、奴はちょうど石膏像を叩き壊すところだった。

展覧会のために作っていたものだ。どうしたのかと問い詰めてもまともに話を聞いてくれない。奴は相当に参っていた。

 

はそんなつもりはなかったのに。どうしてだ、木嶋。

奴はにはっきりと、殺してやると言い放った。そして彼がわめき散らしたのは聞き違えでなければ、悍ましき暗闇の使徒の名だ。

木嶋はを怨んでいるのか。

狙われているのかもしれない。念のため例の書から守護の呪文を書き出しておこう。

彼を止めなければならない。」

 

 

 

 

12.木嶋邸

 木嶋について由宇に話し、場所を教えてもらった場合に訪れることができる。

 住宅地からも離れた場所にある古ぼけた廃屋。古い家だが、それなりの広さがあるが中は荒れ果てている。肝試しに来る若者などもいるらしく、周辺には菓子の空き袋なども散乱している。鍵なども壊れており、難なく中に入ることができる。

 中に入れば、ぼろぼろの彫像類が転がった、アトリエと思しき広い部屋が目に付いた。

 

 

・ぼろぼろの芸術品

 小型の像が多く立ち並んでいる。木彫りの手作りなのだろう、精緻に再現された動物や人の顔、かたや抽象的な形状と様々だ。

 そのどれもが激しく劣化し、一部欠けたりばらばらに砕けたりしてしまっている。

 

【目星】or【芸術】or【制作】

 よく見れば劣化だけでなく、人為的に破壊されているように見える

 

 また、技能成否にかかわらず一冊の日記が地面に落ちているのを発見する。

 

・日記

 古めかしい日記だ。日常の記録や創作のアイデアが書き綴られているが、あるときから段々と暗い内容が目立ち始める。

 

「稲見は本当に凄い奴だ。

少し教えたら瞬く間に要領を掴んで、めきめきと頭角を現している。

芸術にも素養があるようだ。

 

稲見の作品は実際に立派なものだ。

その話を聞くのも、共に語らうのも良いひとときだ。

しかし、正直に言えば俺は、あいつが羨ましい。

俺はときたら、相変わらず行き詰まっている。

 

展覧会の話をした。

昨年同様に一緒に出そうと言われて、ああ勿論と答えたが、果たしてどうだろうか。

あいつの作品と並ぶのを考えたら、俺はどうにも気が滅入る心持ちだ。

 

作品は作らねば。

作って売らなければ食い扶持にも困る。近頃は閑古鳥だ。

あの商人め、何が詰まらん造形、だ。金にしか目のない商売人に芸術の何がわかると言うのだ。腹立たしい。

 

稲見の絵が金持ちに気に入られて、大層高く売れたらしい。

嬉しそうに報告に来た。

どうしてお前ばかりそうやって、何をしても成功するんだ。

いつもお前は俺の先を行くじゃあないか。

 

うまくいかない。なにもかも。

作れない。

俺には無理だ

 

あいつが羨ましい、あいつが憎い。

いつだってそうだ。あいつは何をやっても上手くいって、全部俺の上を飛び越していく。

俺が教えてやったのに、気づけば絵も陶芸も彫刻も、あいつばかり持て囃される。

あいつさえいなければ。

 

あいつに借りてた本に、いいことが書いてあった。

破壊。暗闇の使徒。なんて素晴らしい響きだろうか。

人の言うことなど聞かない怪物が、唯一、これと決めた生け贄だけは必ず食らうのだという。選ばれた生け贄を食らうまでは、元あった場所へは決して帰らない。

いいじゃあないか。

あいつを食ったら満足して帰ってくれて構わない。

俺の望みを叶えてくれ。」

 

 最後まで読むと、日記帳の間から古ぼけた紙切れが一枚落ちてくる。

 

・メモ

 乱れた筆跡で下記のように記されている。

 

「守護の呪文 奴が仕込んでるに違いない 逆に唱えれば守護が解ける」

 

 具体的な呪文の手順が記されている。内容は下記の通り。

 

 

<守護の呪文>

対象を悍ましい怪物に狙われないよう守る呪文

・対象を視認しながら短い呪文を唱える

・逆から唱えることで既にかかっている守護を解くことができる

(コストはMP3、呪文を唱えるのに1R)

 

 

 

13.対峙

 稲見邸、または旧木嶋邸にて「守護の呪文」を獲得したら、いよいよ雨男及び異形に対処する最終局面となる。

 バグ=シャースへの最終的な対応は大きく分けて2つ。「守護の呪文を解いて雨男を食わせる」か「再度封印し直す」ことだ。前者なら場所は問わない。後者の場合、崩れかけている封印が為された公園のオブジェに、再度封印を描き直す必要がある。その場合、ある程度の事情を伝えれば「祖父が成そうとしていたことなら」と由宇は作品に手を加えることも許容する。

 

 PLの方針に合わせて、人気のない路地か、封印を望むのであれば稲見秀三の彫刻があるひかり公園で敵を出現させることになるだろう。目当ての異形が公園に現れるかPLが気にかけた場合は、人気のない路地裏で近づいてきた「それ」が後を追ってくる、として目的地に誘導すると良い。

 

 しとしとと、相変わらず鬱屈とした雨が降り続いている。小降りな水の粒が地面を叩く音と、湿った靴底がそれを上から踏みしめる音だけが混じり合って響く。

 

 ばしゃん。

 

 不意に、一際大きな水音が響いた。振り返らずとも、背筋をなぞりあげるような冷えた気配が、雨のせいだけではないと感じられる。人気のない路地、街中の喧騒から離れた場所で、貴方たちと、その背後に迫る「何か」だけが存在している。

 水溜りからざばりと体を引き上げたその「何か」は、じわりじわりとこちらへ近づいてくる。獲物を、追ってきているのだ。

 

 

 

 いずれの対処を行う場合でも、バグ=シャースとの戦闘となる。雨男も共に現れるが、戦闘行動は行わない。

 

▼守護の呪文を唱える

 詠唱が完了した者は攻撃対象に含まれなくなる。もしも雨男を含むその場の全員が攻撃対象から外れた場合、標的を失ったバグ=シャースは行動を停止し、戦闘処理を終了して良い。

 

▼雨男の守護の呪文を解除する

 呪文を解除した場合、バグ=シャースは最優先で雨男を攻撃・捕食する。そのままエンディングとなる。⇒END Bへ

 

▼力の五芒星の封印の術式を使用する

 ただちにバグ=シャースを再度封印し、エンディングとなる。⇒END Aへ

 

▼何もせず逃亡する

 事態の解決を放棄したものとしてエンディングとなる。⇒END C

 

 

 

14.エンディング

 バグ=シャースへの対処によってエンディングが分岐する。

 

 ◆END A:バグ=シャースを封印した

 「力の五芒星の封印」を使用し、バグ=シャースを封印した場合のエンディング。

 

 呪文の最後の言葉が紡がれた瞬間、五芒星の輪郭がほのかに光り、霧雨の中に浮き上がる。不定形の異形はがくりと揺れて動きを止めたかと思うと、次の瞬間には吸い込まれるようにその星形の中心へと姿を消していった。びちゃりと跳ねた黒い水が、その切っ先が最後に意思を持って貴方達の方へ襲い掛かろうとしたが、その飛沫は雨男の翻した外套の裾に当たって弾ける。瞬きの間にその異形はすっかり姿を消し、後には古ぼけたオブジェだけがそびえていた。

 いつの間にか雨は小降りになっている。さあさあと空気中を舞う雨粒の先で、雨男の黒い影がぼうっと揺らいだのが見えた。黒ずくめの朧げな影が更に輪郭をなくし、湿った空気の向こうで、色の薄い唇が何かを呟く。それが言葉を紡ぐ前に、亡霊の影は霧雨に溶けて消えてしまった。

 

 やがて梅雨が去る頃には、雨男の噂はすっかり鳴りを潜めていた。行方不明者もぱたりと出なくなり、うだるような夏の訪れと共に、街には平穏が戻って来たのであった。

 

 

SAN値報酬

生還した:2D6

 

クトゥルフ神話技能+2%

 

 

 

 ◆END B:雨男を犠牲にした

 「守護の呪文」を解除し、雨男をバグ=シャースに食わせた場合のエンディング。

 

 貴方たちへ襲い掛かろうとしていた黒い異形が突如、ぴたりと動きを止める。半液体状のその巨体が、水溜まりから伸びた黒い触腕が、再びゆらりと蠢いたかと思えば揃ってその向く先を変え、それらは一斉に雨男の方へと群がっていった。黒い外套を纏った体が、なお黒い汚濁に飲み込まれる。

 一瞬遅れて響き渡ったのは、雨音をつんざくような悲鳴だった。

 次いで鈍い音。骨が砕け、肉が引き裂ける水っぽい音と、苦痛に満ちた低い悲鳴が黒い怪物の中心から聞こえてくる。伸ばされた青白い手は歪にひしゃげ、指も何本かおかしな方向へ折れ曲がっていた。その手の先に黒い塊が飛び掛かり、ごそりと肉を削いでいった。最早血の通う肉などないはずの亡霊の身体から、黒々とした液体が噴き出している。

 怪物は追い続けた標的を漸く捕らえ、瞬く間に、まだ生きていたその魂を咀嚼してしまった。やがて悲鳴が聞こえなくなると、それは満足したかのようにずるりと、水溜まりの内側へと戻ってゆく。

 後には何も残らなかった。ただざあざあと降り続く雨の中、貴方達だけが立ち尽くしている。

 

 

 やがて梅雨が去る頃には、雨男の噂はすっかり鳴りを潜めていた。行方不明者もぱたりと出なくなり、うだるような夏の訪れと共に、には平穏が戻って来たのであった。

 

 

SAN値報酬

生還した:2D6

 

クトゥルフ神話技能+2%

 

 

 

◆END C:何もせずに逃亡した

 事件の解決を放棄した場合のエンディング。

 

 貴方たちは怪物と遭遇し、その裏にある悍ましい悲劇の一端を垣間見た。しかしそれ以上、如何する事も叶わなかった。あるいは、対処する方法に辿り着きはしたものの、あまりにも日常からかけ離れた信じがたい体験へそれ以上向き合うことに身の危険を感じ、断念したのかもしれない。

 果たして、これで良かったのだろうか。その後も雨が降り続く中、日々テレビのニュースでは行方不明事件についての報道が流れていた。雨の中を出歩けばまたあの異形に出くわすかもしれない。貴方たちは極力外出を避け、窓の向こうの雨音を聞きながら日々を過ごすだろう。

 

 

 やがて梅雨が去る頃には、雨男の噂はすっかり鳴りを潜めていた。うだるような夏が訪れても、時折、街では行方不明者が発生している。激しいゲリラ豪雨のあった日には、誰かがまた、居なくなる。

 怪物は、今も雨の中に居る。降りしきる粒の先、水鏡の向こう側から、此方側を覗き込んでいる。

 

 

SAN値報酬

生還した:1D6

 

クトゥルフ神話技能+2%

 

 

 


あとがき

 実はテストプレイを済ませてから数か月寝かせたまま放置してしまっていました。22年新年過ぎ、ようやく公開することができました。

 雨の中で黒ずくめの不気味な男がこっちを見ている、ホラーテイストな雰囲気が少しでも出ていれば幸いです。是非雨男との初遭遇はいかにも悪い怨霊っぽい感じで描写してあげてください。

亡霊っぽい立ち絵なんかがあると雰囲気が出るんじゃないかなあと思います。その内笹柄さんに用意してもらおうと思っています。

 

 和ホラーっぽいお話が好きなので、いずれまた、今度は真相までしっとり怖い感じのお話も書けたらなと思います。

 

 

 


ここまでお読みいただきありがとうございました!

実際にプレイしてくださった方は、よろしければ是非アンケートにご協力ください。

シナリオページに掲載する難易度や目安時間などの参考にさせていただきます。

 

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