本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION
100人弱の島民が静かに暮らす日本の離島、三鷺島(みさぎじま)。特に目立った観光資源もない場所だったが、今年に入った頃からパワースポットとしてマニアを中心に俄かに話題に上り始めていた。
島を訪れた探索者達は、島に伝わる伝承や名家の存在を知り、三鷺島で今まさに起きようとしている大きな異変に巻き込まれてゆくのであった……。
舞台:現代日本
推奨人数:2~4人
シナリオ傾向:離島を舞台とした大規模クローズド
想定時間:ボイスオンセで4~5時間前後
推奨技能:目星、図書館、電気修理
準推奨技能:心理学
HO1:パワースポット好きの旅行者
探索者はパワースポット巡りなどを趣味とする旅行者である。
最近話題になっている穴場パワースポットとして三鷺島へ旅行に行く事にする。
HO2:記者・ブロガー
探索者は新聞や雑誌の記事、ニュースブログなどを書く記者である。
日本の僻地のパワースポットを記事にする為、三鷺島を訪れる。
HO3:民俗学や海洋学の学者
探索者は民俗学や海洋学などを専門とする学者である。
閉鎖的な島の文化、あるいは近年突然三鷺島付近に発生する様になった
ウミホタルの研究の為に三鷺島を訪れる。
その他、島を訪れる理由が作れる立場であれば自由に設定して頂いて構いません。
シナリオのメインルートクリアの為には、立場や職業よりも積極性が重視されます。
異変や事件に対して自主的に介入しやすい探索者の方が進行がよりスムーズかもしれません。
――――――――これより下はKP向け情報となります――――――――
シナリオ本文
あとがき
三鷺島は遥か昔、『陰陽師』と呼ばれていたクトゥルフ信仰の魔術師によって開拓された。その為、今もその末裔として島を治める逸見家は様々な魔術的知識を持っているものの、時代の流れと共にそれらの信仰も希薄化し、古びた資料が残っているに過ぎない状態となっていた。
そんな中、逸見家に双子の兄弟が誕生する。逸見家では双子は不完全なものとして禁忌であると伝えられていた為、伝承に従って忌まわしい儀式を夜な夜な行い、弟は儀式の道具として地下牢に閉じ込め、兄のみが表向き一人息子として跡取りの扱いを受けて育った。兄は儀式によって知性と力を得て、やがてより大きな力を求め眠っていた逸見家の魔術や信仰を復活させようと画策し始める。父の死後、弟を島から追い出し島で唯一の逸見家の人間となった兄は、海神である「蛍神」として伝えられていたクトゥルフの化身、コラジンを復活させるべく長期的な計画を進行し始める。
探索者達が島を訪れるのはこのコラジン復活計画の完遂間際であり、兄は計画の最終段階の為に発電所の地下に潜み、兄の計画を阻止すべく島外から戻ってきた弟が、兄と成り代わって兄の振りをして振る舞っている。弟と協力し、兄の計画の全貌を暴いてコラジンの完全復活を阻止する事が、シナリオの目的となる。
大まかな目的:逸見清人の居場所を突き止め、コラジンの復活を阻止して島を脱出する
●導入:各々個別の目的から三鷺島へ行く事になる
●1日目:昼過ぎに島に到着、清人(弟)との接触、コラジンの影響による異変
●2日目:清人(弟)との会話、島民の異変、天候の急激な悪化
危機を感じてからの本格的な探索
●クライマックス:発電所地下にて清人・コラジンと対面、島からの脱出
※道中、探索者のPOWが減少するイベントが発生しますが、殆どのルートではシナリオクリア時に減少したPOWは元に戻ります。
三鷺島はその昔、『陰陽師』と呼ばれていた魔術師によって開拓された。魔術師はクトゥルフ信仰のもと深きものとも交流があり、魔術的な力を駆使して未開だった三鷺島を開拓し、自身の血縁者を移り住ませて人の住む土地とした。魔術師の家系の子孫である逸見家が現在も形式上島の当主として代々島民たちを治めているものの、長い時間の中で魔術は徐々に廃れ、現在は逸見家の者たちにとっても先祖の扱った不思議な術や神との交信は、記録の中だけの絵空事となりつつあった。
そんな中、逸見家に禁忌と言い伝えられていた双子の男児が生まれる。忘れられつつあった伝承に基づき、双子の弟は地下牢に軟禁され、夜な夜な兄と冒涜的な儀式を行う為だけに生かされる。兄は清人と名付けられ、表向きは逸見家の一人息子として、次期当主の道を歩み始める。
弟と繰り返し行う儀式によって得た知性と才覚によって徐々に傲慢になった清人は、やがて自分こそが正当な島の後継者であり、逸見家はもっと絶対的な権威を持つべきだと考える様になる。忘れられていた魔術や神々の知識を掘り起こし、その大きな力を得ようとしたのだ。
父が亡くなり正式に逸見家の当主となった後、清人は弟を島から追い出し、島の守り神である「蛍神」として言い伝えられているクトゥルフの化身、コラジンを復活させる計画を進行し始める。発電所の開発により島内に電気が普及し、それを介してコラジンは島民達の精神力を吸収して少しずつ成長した。島民達はコラジンによる精神力吸収によって意志薄弱、非常に穏やかな振る舞いを見せる様になっている。加えて、清人が行った支配の呪文により逸見家の宗家血統に服従する様にもコントロールされており、結果、清人や同じ血を継ぐ弟に対しても、異常な妄信を見せる。
探索者が島を訪れた際には清人の計画は最終段階に入っており、招来したコラジンを目覚めさせるべく清人は発電所の地下にこもっている。兄を止める為に一週間前に訪れた弟が、魔術の影響で意識混乱を起こしている島民達に清人であると誤認され、成り代わっている状態である。探索者は2日目の朝以降、いよいよ完成しようとしているコラジンの復活を阻止しなければならない。
清人の弟は兄の凶行を憂い、阻止するために動いている所謂味方NPCである。成り代わりも一刻を争う中で島民を刺激せず、逸見邸で兄の痕跡を調べるのに好都合だった為に利用しているに過ぎない。真実と正体が知れた後には、弟は探索者達に対して非常に好意的に接し、兄の計画阻止にも協力する。ただし、弟自身もハスター信仰の教団に感化されており、既にハスターの名状し難い憑依者と化している。通常のルートでただコラジンを倒すだけでは、名状し難い憑依者による島の破壊と弟の死亡は免れない。
コラジンの復活を阻止した上で、事前に弟が名状し難い憑依者である事に気づき弟からハスターの力が込められている首飾りを奪う事で、弟を含め犠牲者を出さない最良の結末となる。
逸見清人(いつみ きよひと) 尊大な魔術師の末裔
性別:男 年齢:26
STR14 CON14 POW18 DEX9 APP15
SIZ13 INT18 EDU20
HP:14 MP:18 DB:
SAN:0
逸見家の若き当主、双子の兄。幼い頃から弟と行う「鋭敏な二人」の呪文によって知能を向上させ、その能力によって有能な当主としての地位につき島を治めた。逸見家に伝わる神話的伝承を掘り返し、海神である「蛍神」として伝えられているクトゥルフの化身、コラジンを復活させようと目論んでいる。
既にコラジンを発電所の地下に招来しており、完全な覚醒の為に2週間ほど前から発電所の地下に籠っている。探索者や弟、島民には関心がなく、自分の元へ訪れた者を目覚めたコラジンへの最初の供物にしようとする。
逸見清人の弟 名も無き双子の片割れ
性別:男 年齢:26
STR11 CON12 POW18 DEX9 APP14
SIZ13 INT14 EDU12
HP:15 MP:14 DB:+1D4
SAN:35
逸見清人の双子の弟。古くからの習わしにより、幼い頃から存在を秘匿され屋敷の地下に軟禁されて育った。「鋭敏な二人」の呪文によって兄の知能を向上させる役目を長らく引き受け、陰から逸見家を支えていた。その為戸籍もなく、本名も存在しない。
父親の死後、実権を握った清人に島を追い出され、本土で途方に暮れていた際にハスター信仰の教団と接触し、兄が呼び起こそうとしている蛍神、すなわちクトゥルフの化身に対抗する為にハスターの力を借りようと考える。ハスターとの契約の証である首飾りを常に身に着けており、その力によって名状し難い憑依者へと変容する事ができる。
やむを得ず逸見清人の振りをして島民や探索者に嘘を吐くが、あくまで目的は兄の凶行の阻止であり、島民や無関係な探索者に被害が及ばないようにと考えている。
湯島 多恵(ゆしま たえ) 民宿の女将
性別:女 年齢:41
三鷺島で民宿を営む女性。子供はなく、夫を早くに亡くして一人で暮らしているが、三鷺島への旅行客が増え始めてから民宿を開き、旅行者に宿を提供している。探索者の宿泊先。
元々穏やかな性格の女性であるが、他の島民と同様に呪文の影響も受けている為、感情を激しく動かす事はなく、逸見家に対しては強い妄信の態度を示す。
丹山 るりか(にやま るりか) 島外の少女
性別:女 年齢:7
湯島多恵の遠い親戚で、家庭の事情で1年ほど前から三鷺島に移ってきて湯島の下で暮らしている。配偶者側の血縁の為、湯島と直接血の繋がりはない。
基本的に元気いっぱいな年相応の少女。ただし、逸見家の血が混じっていない為呪文の影響を受けず、他の島民とは違い逸見清人に対して「なんだか怖いひと」という感想を抱いている。
※特殊な設定あり。詳細は資料ページ参照。
◆敵性NPC
蛍神(ほたるがみ) クトゥルフの化身 コラジン マレモンp.163
高圧の電気以外はコラジンにダメージを与える事ができない。
覇風神の子(はふうじんのこ) 名状し難い憑依者 マレモンp.113
※マレモンの表記からは一部ステータスを改変しています。
STR40 CON36 SIZ31 INT15 POW35 DEX10
HP:34 MP:35 DB:+3D6
装甲:6ポイントのうろことゴム状の肉
触手 75% ダメージ1D6+DB または組みつきからの自動即死
目撃による【SANチェック】1D3/1D8
シナリオ本文の読み方
・地の文…KP向けの状況説明および処理に関する記述など、シナリオ本文のメイン部分です。適宜目を通しながら進行してください。
・読み上げ文…情景描写の文章、もしくは文章媒体での情報の内容です。この文章はそのままPLへ向けて読み上げ・提示を行って構いません。
・ダイスロール文…SANチェック及び各技能などの処理です。技能のダイスロールについては、”※強制”の記述がない場合振れる技能の提案の有無などはKPにお任せします。
季節などは特に指定なし。
探索者達はHOごとに個別の理由で三鷺島への旅行を計画する事となる。
各PLと相談して、それぞれの探索者が三鷺島へ訪れる事になった経緯を設定する。
以下、島への出発前に行える情報収集と、得られる情報を纏める。
◆共通 島への行き方と宿泊
島へ向かうと決めた時点で、特にロールや宣言等なしに手に入る情報。
ネット上の三鷺島へ行った旅行者の声などから、以下の情報が分かる。
・島へは本土の最寄の港から船で渡る事が出来る。
・ただし、定期便などではなく、漁港の漁師に声を掛けて船を出してもらう事になる
漁師側の都合から、日帰りは難しい
・三鷺島にはホテルなどはないが、一つだけ民宿があるため宿泊が可能
◆三鷺島のパワースポットについて
どの様なパワースポットかを調べる場合、以下の情報が手に入る。
【図書館】ネット検索でSNSのアカウントと、個人のブログサイトがヒットする。
⇒資料:SNSアカウント
資料:ブログサイト を提示
◆三鷺島について
三鷺島自体について調べる場合、以下の情報が手に入る。
【図書館】ネット検索で島の基本情報に加え、伝承まとめブログがヒットする。
<三鷺島基本情報>
・本土から少し離れた海上に位置する小さな島
・100人余りの島民がごく閉鎖的に暮らしている
・最低限の生活設備は整っているものの、未だに古いしきたりが残る部分も多い
・現在の島民は全て開拓時の入植者の子孫であり、外からの移住者は居ない
・ここ1年程、近海でウミホタルの群れが見られる様になったらしい
・元々三鷺島近海はウミホタルの生息域ではなく、環境変化が起きたと考えられる
まとめブログ⇒資料:まとめブログを提示
上記の情報はシナリオの導入として比較的重要な情報となる為、情報入手のハードルを調整したり、場合によってはダイスロールなしで全て公開してしまっても良い。
探索者達は奇しくも同日に三鷺島への旅行を計画する事になる。合流の為の導入は三鷺島へ渡る為の本土の漁港へ到着したシーンから開始する。
昼過ぎ頃、本土の漁港へ到着すると、桟橋にモーターボートを停め、杭に腰掛け煙草をふかしている40代程に見える男性の姿がある。特徴などから、その男性が三鷺島への渡し船を出してくれる漁師である事が分かる。
漁師に声を掛ければ、駄賃代わり程度の渡し賃で三鷺島へ船を出してくれるという。この時、帰りはいつ頃三鷺島へ迎えの船を出すかも確認するが、漁師側の都合で船を出すのは明日以降になると伝えること。また、この時何日後の何時を指定してもシナリオに影響はない。
自分と同じ様に旅行荷物を持った者が他にも居ることを伝え、ここで探索者同士の合流を行う。三鷺島へは小型のモーターボートで10分程かかるため、探索者同士の自己紹介などの時間に充てる。漁師と話をする場合、漁師は三鷺島への旅行客はここ1年程で急に増えたこと、それがパワースポットとしての噂や、最近三鷺島近海で見られるようになったというウミホタルが理由ではないかということを話す。彼は三鷺島が閉鎖的で何もない孤島であるとよく知っているので、観光気分で島を訪れる旅行者を不思議に思っている。
三鷺島に到着すると漁師は探索者達に三鷺島の地図を渡し、再び本島へと帰ってゆく。次に漁師が三鷺島にやってくる予定となるのは、探索者が約束した帰りの日時となる。
⇒資料:三鷺島の地図を提示
三鷺島はごく狭い島であり、住民達は西部の住宅地域に住んでいる。島の中央に向けて小高い丘になっており、島の端から中央へ向かうには上り坂が続く。東部は人の手の入っていない森林地帯となっている。
※島民のロールプレイについて
島民は全員コラジンの影響を受けてPOWを吸収されているため、どこか異常なほど穏やかで強い意志を示さない。基本的には探索者の要求や発言に反抗することはなく、対応できない要求に困ったり断ったりはするものの怒るなどの感情の起伏は見せない。
また、支配の呪文によって逸見家に対する強い服従の意志が植え付けられている為、逸見家や逸見清人については無条件に賛美するような発言が目立つ。
上記二点を強く印象付けるようなRPが望ましい。
ただし、この効果は「逸見清人の弟」「丹山るりか」には適用されない。
◆港
そこそこの広さを持つ港。桟橋の脇には漁船がいくつか並んでいる。風はなく穏やかな空気が流れており、桟橋から見下ろす水面も澄んだ深い青色に揺らめいている。
真っすぐ島の内陸側へと緩やかな上り坂が続いており、その先に家屋の屋根が立ち並んでいるのが見える。道なりに進めば住宅地域に繋がっていると分かるだろう。
◆住宅地域
島民たちの居住区は小規模な町の様相を呈している。港から少し坂を上がった所にあり、通り沿いには木造の少々古めかしい家屋が立ち並んでいる。八百屋や魚屋の看板を掲げている店もあれば、ごく普通の住宅も入り乱れており、世間話をする店主と客、洗濯物を干す主婦など、あちこちで生活を営む島民の姿が見られる。
探索者達は事前のネット情報などでこの住宅地域に民宿があると知っている。探すのであればすぐに「民宿 ゆしま」という手書きの看板を掲げた家屋を発見するだろう。
●民宿 ゆしま
民宿を訪ねれば家主である湯島多恵が迎え入れてくれる。湯島はにこやかに対応し、部屋は空いているので宿泊可能である旨を伝え、探索者達を部屋へ案内する。
湯島は元々物腰穏やかな女性であるが、POW吸収と呪文の効果で一層おっとりとした印象の振る舞いをする。ただし会話自体には積極的で、島のお勧めスポットなどを訊かれた場合、島に伝わる蛍神を祀る場所として夜光洞を教えてくれる。合わせて夜になるとウミホタルが美しい浜辺もおすすめする。食事は3食民宿で提供されるので、1日目の探索としては夜光洞などを見た後に夕食に帰り、夜に浜辺を見てから就寝するぐらいでちょうど良い。1日目に隅々まで探索を行う必要はない。
探索者が散策に出かけようとしたところで以下イベントが発生する。
貴方たちが荷物を置いて玄関口に戻った辺りで、見送りに来た湯島の陰から幼い少女の姿が覗いているのに気づく。少女は様子をうかがう様にじっと貴方たちの方を見つめているが、湯島の後ろからなかなか出てこようとはしない。
彼女は湯島の遠い親戚の丹山るりかであり、1年ほど前から湯島の下で暮らしている。人見知りがちな女の子としてRPしつつ、彼女が外の人間(=逸見家の血が混じっていない)であること、他の島民と比較して活発かつ積極的な意思を持っていることなどを適度に示せると良い。逸見清人については「あまり好きじゃない」と島民達とは決定的に違う反応を見せる。
これは横暴だった逸見清人の姿を見てきた為だが、島に移ってきたのはほんの1年前の為、実際に清人としっかり話したことはなく、清人について彼女に聞き込みを行っても重要な情報は出てこない。
探索者達が民宿から出たタイミングで以下のイベントが発生する。
<コラジンの影響>
民宿の戸を潜り一歩外へ踏み出した瞬間、探索者達は急な頭痛に襲われる。小さな、ほんの小さな耳鳴りの様な甲高い音が、きぃぃん、と頭の奥で鳴り響く。
何か通信状態の悪い電波のような、不快な雑音。それと同時に急激に全身の力が抜けるような感覚に襲われる。耳鳴りはすぐに収まるが、尚も異様な倦怠感が全身を包んでいた。
探索者達のPOWを1減らす。
また、初日に住宅地域から出ようとした際、逸見清人の弟との遭遇イベントが発生する。
⇒4. 逸見清人(弟)との遭遇 参照
◆東屋
住宅地域から少し坂を上った丘に建っている小さな東屋。住宅地域やその先の港を見下ろせる見晴らしの良い場所にある。木製の柱はやや古びているがしっかりとしており、屋根が日差しを遮ってベンチに心地の良い日陰を作り出している。
2日目の朝に逸見清人(弟)との会話の待ち合わせ場所に指定される。
◆浜辺
ごく狭いながらに綺麗な砂浜の広がる海辺。夜になると波打ち際にウミホタルの群れが現れ、暗闇の中で青く輝く。夜に訪れた場合、以下のイベントを発生させる。
【目星】水面を漂う光の中に、ひと際明るい緑色の光が一瞬見えた気がする。
光を目撃した途端、民宿を出た際と同じ耳鳴りに襲われる。頭の奥で緑色の光がちかちかと瞬き、全身の力が流れ落ちる様に抜けてゆく。思わずよろけて片膝をつくかもしれない。耳鳴りが収まった後も、背筋にまとわりつくような不快感だけが残っていた。
探索者のPOWを1減らす。
◆発電所
島の電力を担う発電所。少ない島民の分を賄うのには小規模な設備でも十分だが、1年ほど前に拡張工事が行われており大変規模が大きく敷地も広い。
最終局面では発電所内部に踏み込む事になるが、1日目の時点では敷地入口の詰め所に職員がおり、中へ入ろうとすると呼び止められる。
内部の詳細は⇒11.最終イベント 参照
◆夜光洞
蛍神を祀っていると言われる巨大な洞窟。自然の洞窟であり、今も入り口は大きく手はくわえられず自然のままの姿となっている。
元は島に流れ着いたクトゥルフ信仰の陰陽師が儀式に使用していた場所であり、現在も逸見清人が支配の呪文の儀式を行うのに利用していた。
洞窟の入り口付近に簡素な立て看板がある。観光客向けではなく、昔からある記録碑のようなもので、蛍神についての記述がある。
『海原を治め 雷光を御する蛍神
その御霊と通ずる為の清めの場』
洞窟の内壁にはライトが設置されており、足元をぼんやりと薄明るく照らしている。洞窟自体はそう巨大なものではなく、2~3人が並んで歩ける程度の横穴が20m程続いてすぐに行き止まりに行き当たった。最奥はやや頭上が高く空いたスペースとなっており、その奥に2m四方程度の石の台座の様なものが設置されている。台座の周囲は観光客などを立ち入らせないためか、背の低いロープで囲われている。
●台座
2m四方程度の石で作られた台座。自然の形ではなく人工的に整えられたものであると見て取れるが、精巧な作りではなく、例えるのであればストーンヘンジなどの様な「石を利用して作られた構造物」という印象を受ける。背の低いロープで囲われており、洞窟の最奥に鎮座している。
【目星】黒っぽい汚れが広い範囲に付着している事に気づく
⇒【医学】汚れが血痕であると分かる
血痕だと気づいた場合【SANチェック】0/1
台座の血痕は、逸見清人が島民に対する支配の呪文を実行した際のものである。正確な時系列までを血痕から判別する事は難しいが、知見のある探索者が見た場合、真新しいものではないが、最近付いたものだという事が分かっても良い。
血痕から不穏な事件の一旦が垣間見える事を除けば、ここでは特に重要な情報は出てこない。
夜光洞から出るタイミングで、以下のイベントが発生する。
<コラジンの影響>
夜光洞の暗がりから表へ出た瞬間、再び急な頭痛に襲われる。きぃぃん、というあの甲高い音が、頭の奥で鳴り響く。
ノイズ染みた不快な雑音は最初よりもはっきりと感じられる。それと同時に急激に全身の力が抜けるような感覚に襲われる。耳鳴りはすぐに収まるが、全身を包む倦怠感は増したようだ。
探索者達のPOWを1減らす。
◆逸見邸
基本的には2日目の探索で踏み入る事を想定しているが、探索者が積極的に探索する場合には2日目に行う想定のイベントをその時点で発生させ、シナリオを進めてしまっても良い。
逸見邸の詳細な情報に関しては別途下部項目で記載する。⇒7.逸見邸 参照
◆森林部
鬱蒼と茂った森。人の手が殆ど入っておらず、島民も立ち入らない完全な自然の領域。日中でも日が差さず、立ち入ると迷う可能性があると警告すること。それでも立ち入る場合は【ナビゲート】を振らせ、失敗した場合は森で迷い3時間のタイムロスとなる。成功した場合は迷わずに森から脱出できるが、情報が揃うまでは森林部を探索しても何も発見できない。
情報が出揃った際の処理に関しては別途下部項目で記載する。⇒9.森の祠 参照
住宅地域から出ようとしたタイミングで逸見清人(弟)との遭遇イベントが発生する。
貴方達が坂を上り出した所で、坂の上から逆に下ってくる人影に気づく。和服に身を包んだ黒髪の青年が、貴方達に気づいて向かってくるようだった。通りに出ていた島民達は、その青年を見ると誰もが恭しく頭を下げる。まるで貴族か何かの様な応対に、当の青年もどこか戸惑う様な素振りを見せていた。彼は身振り手振りで遠慮を示し、島民達に頭を上げるように言っている。
島民達の礼を受けながら貴方達の前まで来た青年は、にこやかな表情で口を開いた。
「旅行者の方でしょうか。はじめまして、私は逸見清人と申します。この島に長く続く家系の者で、島民のまとめ役の様な事をさせて頂いております」
穏やかな声は朗々と丁寧な言葉を紡ぐ。細めた目元の泣き黒子が印象的な、静かな面持ちの青年だ。
弟は外部から島に人が来たと知り、兄と関係のある者ではないか確認の為町にやってくる。その為探索者達と接触はするものの、本来の目的としては兄を探している真っ最中である為、あまり長く時間を取られる事を好ましく思わない。
今後の展開に関わる重要な情報なので、清人(弟)の外見資料を提示した上、外見描写の際に口頭でも泣き黒子について触れておくこと。⇒資料:逸見清人(弟) を提示
探索者と清人(弟)が会話し出すと、付近の島民がすぐに「ああ、折角のお客人なのだから、あなた方も是非清人さまとゆっくりお話しすると良いわ。清人さまは島の歴史や風習にもお詳しいし、清人さまのありがたいお言葉を是非聞くべきよ」と口を挟む。島民は自分の営む茶屋ですぐにでも、と勧めて来るが、清人(弟)は困った様子で用事があるのでとやんわりと断りを入れるだろう。しかし島民は探索者達に「あなた方も清人さまのお話を聞きたいでしょう、島のことやなんかも、清人さまから聞くのがいっとういい」と探索者達に意思を尋ねる。
もし探索者達が肯定を示せば清人は
「お話したいのは山々なのですが、何分多忙でして。……そうですね、明朝であれば、少しだけお話しましょう。町から少し上がった所に東屋がありますから、そこで。家に来ていただいても不在がちだと思いますので、家に訊ねて頂くよりは、何かあれば此方を」
と電話番号を紙に書いて渡して来る。探索者がこの番号に電話を掛けた場合、KPの判断で清人(弟)と通話させても良いし、電話に出ない事にしても良い。
清人は兄を止める為に奔走しており、探索者達と話す時間を作りたがらない。しかし、翌日の朝に時間を取りつつ、きっとその頃には下手をすれば兄の計画が最終段階に至るであろうことを予期して、その際に探索者達を本島に帰るよう説得するつもりでいる。
清人(弟)は話を切り上げると足早に住宅地域から立ち去ってしまう。
去っていく清人(弟)を見て、その場に居合わせた島民から以下の台詞をRPする事。終盤に森林部にある祠へ行く為の必須情報となる為、「祠」というキーワードは1日目の内に何らかの形で必ずPLに提示する。
「行ってしまわれたわ……。やっぱり逸見家の方は大変なのね。最近もずっと、祠の方にまで通ってらっしゃるみたいだったし、また蛍神さまにお祈りかしら。何にしても、戻ってきてくださって本当によかったわ」
島民の何人かは清人が森林部の方へ立ち入るのを見ており、森林部の奥に大昔に作られた祠がある事を知っている。島民からは清人が2週間前に失踪した事も話題に上がる。それぞれに関する島民の認識は以下の通り。
●森林部の祠について
・森林部の奥には昔三鷺島を拓いた陰陽師が建てた祠があるらしい
・言い伝えの範疇に過ぎず、今は島民も立ち入らない為詳しくは知らない
・逸見家も恒常的に使う事はなかったが、最近清人が度々森に入っていた
●逸見清人の失踪について
・逸見清人は2週間ほど前に突然姿を消した
・1週間の間姿がどこにも見当たらなかった
・しかし1週間前に突然戻ってきて、何の問題もなく無事だった
上記2点の情報は必ずPLに提示すること。このタイミングでうまく提示できなかった場合は、1日目の夜に民宿に戻った際、夕食時に湯島の口から語るなどすると良い。
適当な時間に民宿へと戻ると湯島が全員分の食事を用意しており、夕食となる。探索者全員に加え、湯島と丹山も同じ食卓で食事をする。
夕食時、湯島の方から探索者達に逸見清人に関する話を振る。湯島も他の島民と同様に清人に対して崇拝に近い念を抱いているかのような発言をし、島のまとめ役として取り上げるだろう。話の折に「島の当主でありながらお優しい方で、まだ幼い頃から私たちともよく話してくださったのよ」と食卓近くの壁に飾ってある写真を示す。写真には15年ほど前(11歳)の清人と湯島の姿が映っている。⇒資料:湯島と清人の写真 を提示
【アイデア】写真の人物は昼間出会った男に非常に似ているが、どこか違和感を覚える
写真の清人は本物であるため、探索者達が昼間出会った清人(弟)にあった泣き黒子がない。この事実にPLがリアルアイデアで気づいた場合、違いを認めてしまって良い。また、アイデアの出目が良かった場合には、はっきりと「泣き黒子がない」と伝えてしまっても良い。
ただし、あれが本当に清人かと湯島をはじめ島民達に訊いた場合はあからさまに異質な反応が返ってくる。清人であることを肯定するよりも、逸見家の血への妄信が的外れな返答として示される。
これは呪文の影響と、コラジンの精神吸収によって島民のPOWが低下している為である。
「清人さまじゃない?何言ってるんです、そんなわけないじゃない。意味がよくわからないわ」
と湯島も取り合わず、違うという論拠を並べても深く考えてくれず困ったように笑うばかりである。
ただし、丹山は呪文や精神力吸収の影響を受けていない為、逸見家に対する妄信的な態度やあからさまに異常な反応をしない。そもそも逸見清人という人物を避けている為別人かどうかという問いに対しては「分からない」と答えるが、逸見に関する問いかけに関しては島民と異なる反応を見せる。
湯島の目の前では反論を口にはしないが、丹山は湯島が逸見清人の話をしている間、ふてくされた顔で俯き黙っている。その場で何か問いかけても何でもないと誤魔化すが、湯島が居ない場で訊ねた際には「清人は怖い」「たえおばさんも他の人も、清人の話をするときは変」と正直な感想を述べる。
夕食後、夜になって探索者達が眠りにつくとコラジンによる夢引きに似た精神吸収が行われる。PL全員に1D100を振らせ、【POW*5】で判定する。成功の場合は何も影響がないが、失敗した場合は1D6正気度を失い、1D20時間の間片頭痛を被る。片頭痛を起こしている間はKPの任意判断で技能にマイナスボーナスをつけても良い。また、判定の成否にかかわらず探索者全員に以下の夢描写を行う。
気付くと深く冷たい闇の中にいる。重たい感触が全身を支配し、思うように身動きが取れない。そんな中、不意に目の前にちらつくような小さな光の粒が姿を現した。次々と現れるそれはまるで、闇夜で光る蛍のようにまばゆく、しかし不思議な不快感を脳裏に植え付ける。徐々に近づいてきて自身の体の周囲を囲むその光に、まるで魂が抜かれているような感覚。手足の先が冷えて行く感触にもがこうとするが、体が上手く動かない。光の粒に包み込まれて、徐々に自分の心身の全てが吸い尽くされてゆく―――
悪夢に飛び起きた探索者全員は1ポイントのPOWを失う。目が覚めてなお尋常ではない恐怖と不安感に襲われ、自分の身に何かが起きていると確信するだろう。
二日目の朝になると天気はどんよりとした曇天となる。
昨日までの晴れ空、快晴続きの天気予報とは裏腹に、暗い色の雲が分厚く空を覆っている。日差しが閉ざされたせいか朝から薄暗く、外に出ればびゅうびゅうと強い音を立てて風が吹き荒んでいた。
朝食をとった後、清人(弟)との会話の約束を断っていない場合は指定の時間が近いことを示し探索者達を東屋へ誘導する。
清人(弟)との会話の約束をしていない場合、清人(弟)との会話イベント部分をスキップし、探索者達がある程度住宅地域から離れ自由行動をした辺りで丹山るりかが探索者達を呼びに来るシーンへ繋げる。
・清人(弟)との会話イベント
街から坂を上って少し歩くと、東屋が小高い丘にぽつりと建っており、その下でベンチに腰掛ける清人(弟)の姿が見える。清人(弟)は探索者達を見つけると一礼し、東屋のベンチに腰掛ける様に促す。
探索者達が知りたい内容について分かる範囲で語ってくれるが、一通り話した所で「そろそろ用事がありますので」と切り上げる。引き留めようとしても、清人(弟)は聞かずに足早に去ってしまうだろう。
また、追跡などを試みる探索者がいるかもしれない。しかし清人(弟)が立ち去ったと同時に、住宅地域の方から探索者達を呼ぶ声がする。坂の下から、丹山るりかが必死に探索者達の方へと叫びながら駆けて来る姿が見える。これに気を取られた隙に清人(弟)を見失ったとし、追跡は認めないこと。
・丹山るりかが合流
丹山は青ざめて取り乱した様子で、一番懐いている探索者達の手を引き、必死に住宅地域の方へと連れて行こうとする。何があったか訊ねると、要領を得ない言葉で以下の内容を伝える。
「みんなが、町のみんなが変なの、たえおばさんも、みんなおかしくなっちゃったの!助けて!」
丹山は探索者達が住宅地域に向かってくれるまで手を離さず、説得を止めない。また、その辺りでぽつりぽつりと雨が降り出す。雨脚は強くないものの、吹きすさぶ風と黒雲は嵐を予感させる。出歩くにせよ、一度雨具を用意した方が良いであろう旨をPLに伝え、街へ戻らせる。
住宅地域へ戻った探索者達は、変貌した島民たちの様子を目の当たりにする。
坂を下って街並みが露わになると、探索者達の目に異様な光景が映った。
雨が降り始めているというのに、島民達は皆通りに出てきて、その場に座り込んで荒れる曇天を見上げ呆けている。その表情はうつろで、まるで悪魔にでも魅入られたかのような不気味な静けさで佇んでいた。
通りにずらりと、何十人もの島民が並んで座り込み、何か同じものを一心に拝んでいるかのようだった。近づいてみれば、彼らが何かぶつぶつと小声で呟いているのに気づく。
「ああ…蛍神様が、蛍神様が降臨なされる…逸見家の名のもとに…」
彼らは皆口々に、「蛍神」と「逸見家」を讃える言葉をうわ言の様に繰り返している。話しかけてもまるで耳に入らないかのように視線すら動かさず、意思疎通もままならない。
丹山るりかは必死に探索者の手を引きながら、その島民の様子におびえて涙を流していた。
それに重なる様に、徐々に雨脚も強まり、気づけば冷ややかな大粒の雨が探索者達の頬を打ち付けている。轟々と唸るような強風は、何か恐ろしい化け物のうめきの様に聞こえた。
【SANチェック】1/1D4
清人のコラジン復活の儀式がいよいよ最終局面に入った事で、精神感応の影響を受けその復活を予感した島民達は正気を失っている。
いくら話しかける、精神分析を試みるなどしても、島民達とコミュニケーションを取る事はできない。島民の異常な様子と急激に悪化する天候により街、島全体の危機感を演出し、探索者の解決行動を煽ること。
「民宿ゆしま」の前まで来ると、湯島多恵が他の島民と同様に通りで空を見上げて呆けている。丹山が駆け寄って声を掛けながら肩を揺するも、湯島は反応を示さない。丹山は探索者達に湯島を治してほしいと涙ながらに懇願する。
この際、探索者達が丹山を1人置いていくのに不安を感じ一緒に連れて行こうとする可能性がある。しかし、丹山は頑として湯島の傍から離れず、その場で待つことを宣言する。基本的には、この後はシナリオの終盤へと向けて物語が進行する為、丹山が探索者に同行し続けるのは好ましくない。
ただし、探索者がどうしても同行させようとする場合は、KPの判断に基づいて同行を許可しても良い。その場合、最後まで丹山るりかをただの純朴な少女として演出するか、いずれかのタイミングで正体を知らしめる 12.丹山るりかの正体について に準じたイベントを起こすかはKPの判断に任せる。
住宅地域を見下ろせる小高い丘の上に位置している広い敷地を持つ立派な屋敷。古めかしい佇まいながらも重厚かつ上等な雰囲気を感じさせる作りで、歴史ある家だろうと外見からも分かる。
敷地内に入ると、大きな母屋と、中庭に小さな蔵程の立派な倉庫が見える。また、玄関を見れば、玄関の戸の鍵が外から見ても分かる程派手に破壊されていると気づく。
これは清人(弟)が三鷺島へ戻った直後、力ずくで中に入る為に破壊してしまった為。清人(弟)はこれを知られない為に、島民及び探索者達に屋敷へは来ないようにと言っていた。
屋敷は平屋ながらに中々の広さがあるが、シナリオに無関係な場所が多い為間取りや各部屋の情報に関しては省略する。PLにはその旨を伝え、一通り屋敷内を見て回って気になる場所を洗い出せたとして以下の探索箇所を提示する。
・家主の書斎と思われる部屋
・中庭から続く倉庫
・廊下の突き当りにある床下収納の様な扉
◆書斎
家主の私室兼書斎と思しき部屋で、本棚や机がある他、部屋の端には布団も敷かれている。本棚にも古い小説や分厚い歴史の本などがしまわれているが、それ以上に目につくのは机の上に雑多に積み上げられた古書の山である。
この部屋は逸見清人が使用していた部屋であり、清人のこれまでの行動に関する情報が得られる重要な探索場所となる。
【机の本の山に図書館】『蛍神と逸見家について』という古い書物の一つが目に留まる。
【本棚に図書館】書籍に紛れて乱雑に押し込まれた手記を発見する。
・『蛍神と逸見家について』
三鷺島の起こりに関する伝承を纏めた書物。内容は以下の通り。
『今より昔、まだ三鷺島が人の住まぬ島だった頃、陰陽の術を心得た一人の男が島へ渡ってきた。男は自らの式である海の民を操り、果ては彼らの神たるものと通ずる術を心得ていた。偉大なる海神の力を借りて、男は枯れていた土地に恵みをもたらし、実りを与え、人々を移り住まわせ三鷺島を拓いた。それまで人の住めぬ荒れた土地だった三鷺島は男の手により人々の住まう豊かな島となり、男はその後も妖術の力によって度々島の危機を救い、人々を守った。これが逸見家の最初の祖先である。
逸見家の血には代々この祖先の力が宿っており、それ故島を統治し守ってゆけるのは逸見の血筋のみである。
三鷺の血に伝わる「蛍神」は祖先の男が契りを結び力を借りていた式の神であり、三鷺島を包む海原を御する大変強靭な海神のかりそめの姿である。逸見の血筋の者が呼べば、海神はこの光輝く姿となって現世に顕現し、島を治める力を与える。
この姿は海神の実際の姿ではないが、それでも人の子に膝をつかせるには十分なほどの力を持つ。この輝ける化身を真の姿に戻す事は、かの神と契りを交わした逸見の血筋の者にのみ成しえる事である。』
・逸見清人の手記
逸見清人の手記。書き手を特定する情報はないが、探索者が指定して訊ねた場合、妥当な技能を振らせるなどした上で、電話番号を書いて寄越した清人(弟)の字とは筆跡が異なると伝えても良い。内容の重要な部分の抜粋は以下の通り。
『(6年ほど前)
父の代にも最早伝統は薄れ、逸見の血に流れる由緒正しき血統の力も失われつつある。
これは絶対に私が取り戻す。逸見家こそが三鷺島の正当な統治者。
それにふさわしい力が必要だ。
祖先の逸話にあったように、神を手中に収める力が。
(4年ほど前)
もうあれは必要ない。あんな悍ましい儀式も行う必要はない。
よって地下室も閉じ、もう使わない事にする。それが一番良い。
不要なものなので、家からも出した。
これからは私自身の力で、島を治めねば。
(2年ほど前)
発電所の改築工事は順調な様子だ。
この調子なら1年もすれば今より大規模な発電機の稼働が可能だろう。
喜ばしいことだ。
(1年ほど前)
煩い島民共も静かになった。
これがあるべき姿だ。逸見家こそが王家。民草はおとなしく頭を垂れているが良い。
(2週間ほど前)
やっとここまできた あと少しで全て手に入れられる』
◆倉庫
一般的な倉庫というには随分頑丈な作りで規模も大きな、蔵の様な建物。中庭の奥に位置しており、窓もなく正面の木製の扉は閉ざされて閂がされているため、中の様子は分からない。
閂を下ろして扉を開けると、中から埃っぽい空気が噴き出して来る。どうやら長く使われていなかったのだろうと伺える。中には様々な書物や置物、様々な雑貨がしまわれた箱などが所狭しと詰め込んである。
【目星】古めかしい巻物と書物を見つける
・巻物
開いてみると一番初めに「逸見家家系図」と記してあり、その記載の通り逸見家の代々の家系図が墨で記されている。辿って見れば、確かにかなり古くからの血筋であると伺える。
最新の位置には「逸見清人」の名前と、その横に同じ両親からもう一つ線が引かれ、名前の入る部分が真っ黒に塗りつぶされていることに気づく。
・書物「畜生腹の清めの儀」
書物には上記の題が記してあり、双子に関する話が記述されている。内容は以下の通り。
『双子は元は同じひとつの赤子が分かたれたものと言われている。それ故に、双子は全てを二つに分け合ってしまう。能力も、精神も、運命すらも。片割れには半端な素養しか残らず、もう片割れも同じ。双子は不完全な器に他ならない。
故に、器合わせの儀にてその半端な残滓をより優れた方へ注ぐ。そうする事で、不完全な双子は初めて本来の姿と資質を取り戻せる。
双子の生まれた折には、必ず、どちらが主たる器であるのか決め置く事。主たる器の一人のみが、逸見の名を継ぐに相応しい。もう片割れは器に注ぐ為の仮の器に過ぎない。それは逸見の名を語るべき存在にはなりえない。
主たる器にもう片割れの残滓を注ぎ、完全な存在として世継ぎとする。
仮の器は穢れの器。穢れの器は地下の儀式の間にて厳重に封じ、逸見の名からは離し、決して人目に触れさせてはならない。』
更に、以降に「器合わせの儀」という儀式の手順が記されている。
その内容の要約は以下の通りである。
『血を分けた双子で猟奇的かつ淫らな行為を行う。これは双子の主たる器と穢れの器の優劣を決定づける為の儀式であり、主たる器に雄の役割を、穢れの器に雌の役割を与え番うことでその関係を心身共に結びつけるものである。血と汚濁による凌辱により、主たる器が支配者となり、穢れの器の精神的資質を一時的に吸収することが出来る。資質を吸収し完全となった主たる器は、神のごとき明晰な頭脳、万物の理を知る智慧を得る。
しかしこの効果は一時的なものであり、一度の効果にて三日三晩の間しかその力は維持されない。効果が切れるごとに儀式を繰り返す事でのみ、主たる器は完全な力を得続けることが出来る。』
以上の内容を読み、常軌を逸した猟奇的な儀式の行程を知ってしまった探索者は、
【SANチェック】0/1D2
また、倉庫を後にする際、内壁の扉脇に小さな鍵が引っ掛けてあるのを発見する。これは逸見家地下への扉の鍵である。
◆地下
廊下の突き当りにある床下収納の様な扉は、屋敷の地下へと続いている。鍵が掛かっているが、倉庫にある鍵を使えば扉が開く。
扉を開けると暗い階段が下へと続いている。階段は先が暗く、人一人が通れる程度の狭い幅しかない。階段脇に古びたランタンとマッチが置いてあり、埃を被っているものの問題なく使用出来る。
階段を暫く降りると、目の前に重厚な扉が現れる。扉は外から閂が掛けられる作りになっているが、今は開いているようだ。扉の先は4畳ほどの小さな部屋になっている。窓や明かりはなく、湿っぽい部屋の様子が手持ちの明かりでぼんやりと映し出された。
部屋は独房の様な作りになっている。片隅に厠、小さな本棚と机があり、辛うじて人が生活できるスペースであると分かる。何より目を引くのは、小さな部屋の中央に広々と横たわる寝床である。長らく使われていないであろう傷んだ布団を囲むように、怪しげな装飾が施された燭台が4つ置かれている。
・机
こじんまりとした机と小さな椅子が窮屈そうに部屋の隅に収まっている。見た感じからしてもかなり年季の入ったものだと分かる。
・厠
和式便所が部屋の片隅にむき出しのまま設置されている。あまり近づきたくはない。
・本棚
【図書館】棚にあるのは子供向けの教本から学生向けの勉強本、教養本など。どれも10年近く前のもの。
・布団
ぼろぼろに傷んだ布団と、その四隅を囲う様に燭台が置かれている。燭台には溶けかけの蝋燭が取り付けられているが、その蝋燭も劣化して崩れかけている。
【目星】布団はひどく汚れており、黒ずんだ染みや鼻をつく嫌なにおいが目立つ。
【オカルトor人類学】燭台の装飾が儀式的な意味合いを持つ飾りであると分かる。
この地下室が器合わせの儀が行われていた「儀式の間」であり、清人(弟)が清人によって島を追われるまでの間軟禁されて育った部屋である。中央の布団は儀式に繰り返し使用されたため、血痕やその他の汚れで酷く傷んでいる。
情報が出揃って探索者達が弟の正体と起きた事の経緯をおおよそ察した時点で、次のイベントが発生する。⇒8.弟との遭遇
探索者達が逸見家の恐るべき真実に気付いた所で、階段の方から地下へと歩いてくる足音がする。
こつ、こつ、という静かな音と共に階段を下ってきたのは、逸見清人だった。
彼は地下に居る探索者達を見てもさして驚いた様子はなく、その目はいくらかの憂いを帯びて静かに伏せられているばかりだった。
侵入に関して苦言を呈すでも、敵意を向けるでもなく、彼は暫しの沈黙の後、重苦しく口を開く。
「……ここに居るということは、この逸見家で何が起きたのか、きっともうご存知でしょう」
清人(弟)は探索者に対して敵意を見せず、弟であることを指摘されればあっさりと認める。話をしようとするのであれば、地下に留まるのを嫌がり、一階の客間へと探索者達を案内する。
その上で、何があったのか訊ねられれば、これまでの経緯についても詳しく語る。
「私は長らくこの部屋で暮らし、兄のことを支えてきました。
しかし兄はいつからか自身の力と逸見の血に酔いしれるようになり、父亡き後、逸見家に伝わる古い神にまつわる伝承に関心を持ったのです。
そして兄は日に日にその存在に魅了されてゆくようでした。やがてその目的の為に島民すら蔑ろにする様になり……。
私はそれをどうにか止めようとしました。しかし私の話など聞いてくれるはずもなく。とうとうある日、兄はもうお前の助けなどなくとも自分には十分に知恵と力があると私に言いました。そして私を島から追いやったのです。」
自分が島に居る経緯については以下の様に語る。
「兄の目論見は恐ろしいものです。とても人の子が手を出して良い領域ではない。それだけは分かるのです。ですから、兄の手によってこの数年島に変化が生じていると知り、どうにか兄の目論見を止めねばならないと思い、こうして久方振りに三鷺島に戻りました。
しかし私が島に着くと兄の姿はなく、当主の不在に狼狽えていた島民たちは驚くことに私を兄と取り違えたのです。
説明しようにも私の存在は島民にも知られていませんから、結局、急を要する中自由に家の中を調べたりするのにも兄の名を借りてしまった方が都合が良いと思いまして……。
皆さんにも騙す様な真似をしてしまったのは、お詫びします」
弟は探索者達に騙していた非礼を詫びた後、兄の計画がいよいよ最終段階に至っていること、島に危険が近づいているであろうことを伝え、すぐに島から出る様に促す。
それを受けて探索者がどう行動するかは自由だが、どちらにせよこの時点で、能動的に島を脱出する手段は探索者達自身が船舶を操縦でもしない限りないに等しいとPLに伝えること。
探索者が協力を申し出るなどした場合、清人(弟)は関係のない相手を巻き込むのに申し訳無さを感じつつも探索者達に感謝し、同行する。
清人(弟)は逸見家に残された資料や島民の話から兄の足跡を追おうとしており、兄が「蛍神」を復活させようとしているところまでは突き止めている。しかし、肝心の復活の手順の詳細や、兄の現在地を示す手掛かりを見つけられずにいることを探索者に伝える。ここで、森の祠の話を聞いている探索者全員に【アイデア】を振らせる。
【アイデア】島民が話していた森の祠について思い出す
祠の話を清人(弟)に伝えると、「実際に行ったことはないが、その話を聞いたことがある」とはっとした様子で答える。島を追われる以前、兄がその祠への道順を調べていたと思い出し、その道順を今もおぼろげながら覚えていると探索者達に伝える。
以降、祠への道順を知っている清人(弟)と同行することで、森林部から森の祠へ到達できるようになる。
清人(弟)の案内で森林部を進むと、暫く進んだ所で木々の開けた場所に出る。その中央にはごく小さな木製の祠が静かに佇んでいる。正面の戸には古びた閂がかけられているが、特に大がかりな施錠もなく、簡単に扉を開くことができる。
これは夜光洞とは別に、更に古くから逸見の家の者が冒涜的な儀式や神話的存在との交流に用いていた祠である。ここで様々な記録を蓄積、儀式的準備を行い、それを介して神話的存在とやりとりする場として夜光洞が用いられていた。
祠の中には逸見家で見たよりも更に年代な古そうな書物の数々や、何に使うのか分からない道具、陶器の器などが納められている。
【目星or図書館】古い書物が二冊目に留まる
・古頼塵(こらいじん)についての書物
黄ばんだ古紙に筆で書かれた書物。内容は以下の通り。
『古頼塵は逸見の陰陽師が古くから契り、力を借りている神の姿の一つである。
夢幻のように朧げな存在だが、その真の姿は大変に強大で、今も深い水面の底に眠っている。その姿はまばゆい光を纏い、さながら無数の蛍の群れのごとき群像となる。
海神でありながら雷の力を糧とする事から、光雷神(こうらいじん)とも呼ばれる。然れども、いかに雷を依り代とすれども、過ぎたる雷は目覚める前の古頼塵の力を霧散させかねない。扱いにはくれぐれも気を付けなければならない。
強大な力を持つ海神ではあるが、古頼塵は仮の姿に過ぎない。かの神がその本来の姿を世に表すには、精神の糧、すなわち人々の持つ気の力を捧ぐ必要がある。古頼塵は人々の気を長い年月をかけて吸い集め、その力が十分に集まった時、初めて真の姿を現世に降臨させる。
本来の姿を取り戻した古頼塵は広大な海原を丸々手中に収める程の力を持ち、どの様な荒神も敵わぬ程だと言われている。』
書物を読んだ探索者は【SANチェック】1/1D3
「古頼塵」はクトゥルフの化身である「コラジン」の事を指している。その別名である「光雷神」という言葉は、実は探索者が島を訪れる前に事前情報として閲覧できる資料:まとめブログのブログページ内にも存在している。
PLがこの事に気付き、ブログページのリンク先を見るという宣言をした場合、該当する記事のページを閲覧できる。⇒資料:まとめブログ2を提示
※この資料の閲覧はGOOD END到達の為の必須条件ですが、基本的に発見される事を想定していません。この資料を発見できなかった場合でも、問題なくシナリオクリアは可能です。
「古頼塵についての書物」内での情報から、古頼塵が電気と結びつきのある存在である事が判明し、最終決戦の場である発電所に赴く動機付けが行われる。ただし、PLがこの点に気付かずに探索が難航してしまった場合などは、適宜【アイデア】を振らせるなどしてその情報を伝えること。
・血統の支配について
同じく古紙に書かれた書物。魔術的な儀式について書かれており、主な内容は以下の通り。
『流れる血を祭壇に注ぎ、術式をもって血を支配の力の依り代とする。これは古の陰陽師が式と契る際の術式を土台としたもので、その血を分かつ血統の者に本能的な服従を呼び覚ます。血を分けた分家は、純潔たる正統血統には決して抗えない。
正統なる血にのみ宿る力は王たる統治者の印であり、いかなる民草も頭を垂れるだろう。』
まとめブログから覇風神(ハスター)に関する情報を入手した場合、清人(弟)が行っているハスターとの契約を解除する試みが可能となる。契約を解除する条件は、清人(弟)が肌身離さず身に着けている首飾りを外させることである。ただし、清人(弟)は直接頼むなどしても首飾りを外すのを拒み、首飾りに意識を向ける探索者達に警戒を示す。首飾りを外させるには、何らかの方法で不意を突くなどして強制的に外させる試みが必要である。
本人の意志に沿わず無理に首飾りを外させようとした場合、清人(弟)は強い拒絶を示し本気で抵抗する。ただし、その際に名状し難い憑依者の力を使うことはなく、単純にこぶしやキックの技能、STR対抗による抵抗となる。
首飾りを外すのに成功した場合、以下のイベントが発生する。
彼の首にかけられた首飾りの留め具を外し、首から離すと、ぶちり、と嫌な音が響いた。それは首飾りの紐が千切れた音ではない。何か、生き物の肉が無理やりに断たれる様な、不快な音。
それと同時に、それまで必死の形相で抵抗を示していた青年の動きがぴたりと止まる。短い呻き声をひとつ上げたかと思うと、彼はそのまま、糸の切れた操り人形の様にその場で地面へと崩れ落ちた。
その肢体はぐったりと地面に横たわるものの、静かな呼吸が繰り返されていた。命に別状はない様だ。それを確認すると同時に、それまできらきらと輝いていた首飾りが、探索者の手の中でぴしりと音を立てる。それはひとりでにひびが入り、そしてぱきぱきと乾いた音を立てたかと思うと、かしゃんと砕け、探索者の指をすり抜けて砂の様に散ってしまった。
宿主との接続を断たれた憑依者の種は消滅し、清人(弟)はその影響で意識を失う。清人(弟)はそのままシナリオ終了後まで意識を取り戻さない。ただし、これは余計な混乱を招かない為の措置であり、シナリオ終盤の進行上で必要があれば、KPの裁量で清人(弟)を目覚めさせても構わない。
探索者達が発電所へと向かうと、いよいよシナリオは最終局面となる。発電所に到着する頃には益々雨脚が強まり、すっかり黒雲に閉ざされた空からは時折激しい雷鳴が鳴り響いている。嵐と言って差し支えない天候である。
敷地内には人の気配はなく、入口の詰所も無人となっている。しかし、発電所の建物は明かりがついており、正面の入り口から堂々と侵入できる。
発電所の内部は天井の高い広々とした空間になっており、大型の機械が数多く立ち並んでいる。その中には島内の電力を賄っているメインの巨大発電機も含まれていた。機械の稼働音が鳴り響いているが、相変わらず建物内に人の姿は見当たらない。
【目星】フロアの床が濡れている事に気が付く
よく見れば、点々とわずかではあるが、床の一部に水滴が散っている。それは貴方達が入ってきた入口付近から続いており、外で雨を被り濡れた人物の足跡の様に思われた。水滴を辿れば、フロアの一角に「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉があり、その扉は半開きになっている。消えかけたわずかな水滴は、その中へと入っていくようだ。
扉の先は地下への下り階段となっており、壁に埋め込まれた照明にのみ照らされる薄暗い階段が長く続いている。階段を下りきると、地下フロアの入り口となる扉が現れる。扉は金属製で、向こう側の様子は伺えない。
扉を開いて進むと、逸見清人との対面となる。
扉を開けるとすぐに、それまでの薄暗い通路とは打って変わって目がくらむほどの光が差し込んで来る。どうやら部屋の奥に強烈な光源があるらしい。
思わず目をそらした先の床一面に散乱しているのは、緊急時用の携帯食料や水の空きボトル、毛布などの日用品だ。それはまるで、そこで誰かが寝泊まりをしていたかの様だ。
改めて部屋の奥へ目を向けた所で、そこに一人の男がいる事に気が付くだろう。
男は侵入者の気配に気づくと振り返り、貴方達を眺めてから愉快げに声を上げて笑った。男の背後には、先程目をくらませた光の正体が鎮座している。
明るい緑色の光が、激しく瞬き、朧げな輪郭を形作っている。それは正確な形こそ不明瞭なものの、広いフロアの天井につかえる程、見上げる程の巨大な塊だった。その光の集合体が意思を持っていると、直感的に理解する。その光の明滅を見ていると、まるで全身から何かを吸い取られているような倦怠感と不安感に包まれた。
コラジンとの遭遇に【SANチェック】1D4/1D10
探索者達を待ち受けていた男は、そこで長らくコラジンの復活を準備していた逸見清人である。弟と瓜二つの顔立ちだが、その目元に黒子はない。漸くコラジンの完全な復活を目前にし、清人は探索者達の侵入や弟の帰還すらも些末な事と笑い飛ばす。清人(弟)は兄を説得しようとするも、兄がそれに耳を貸す事はない。
※この時点で清人(弟)が同行していない場合、清人(弟)の台詞のくだりは割愛。
「驚いたな、誰だお前たちは。それにそっちは……懐かしいな、名もない我が哀れな弟。
もうすぐ私が、逸見家がこの三鷺島の完璧な支配者となるんだ。この古頼塵のお姿を見るが良い!かの神も、私に力を貸してくださる!」
「やめてください、兄さま!そのような力は今の三鷺島には不要です!
要らぬ事をすれば、神の怒りを買います。島民たちの様子は兄さまのせいでしょう!」
「うるさい!そこの部外者もだ。何をしに来たかは知らないが、丁度良い、今まさに神が目覚めんとする所だ!お前たちもこの崇高なる儀式の贄となるが良い!」
男が手をかざして何事か呪文の様なものを唱えると、背後の光の集合体がひと際強く輝き出す。しゅうしゅうと音を立てて、その全身から白熱したプラズマが吹き出し、それは、まるで巨大な怪物の様に、その体を持ち上げて動き出したように見えた。
強大なエネルギー体が轟音を立てて、その狭い場所からあふれ出そうとしている。
清人はコラジンの力を用いて、手始めに邪魔な探索者達を始末しようとする。この時点での清人(弟)の状況によって、この後の展開が変化する。
1.清人(弟)が同行しており、憑依状態が解除されていない
弟は名状し難い憑依者へと変貌し、コラジンに襲い掛かる。NORMAL END展開。
ふと見れば、貴方達の傍にいる弟も様子がおかしい。直前まで必死に説得しようとしていた兄を前に口をつぐむばかりでなく、危機的状況を前に貴方達を守るでも逃がすでもなく、立ち尽くしている。
否、それが「変異」の途中であるとすぐに理解するだろう。
彼の腕が、ぶくぶくと膨れ上がり、みるみる内に数倍にまで体積を増して、服の袖を引きちぎってその異様な姿をあらわにする。それは人間の腕などではなく、奇妙な形をした触手の様に見えた。腕だけでなく、足も、腹も、彼の全身が水風船の様に膨れ上がり、耐えきれなくなった衣服を散り散りに破り捨てた。その中から現れたのは、幾重にも重なる触手の塊、まぎれもない異形の化物だった。
名状し難い憑依者を目撃【SANチェック】1D6/1D20
触手の異形となり果てた弟は、目の前でうねる光の集合体へと全身をくねらせながら飛びかかった。異形達がぶつかる度に建物全体に地響きの様な轟音が響き、探索者達の頭上では悍ましい触手と怪しいプラズマが、混じり合いながら飛沫を散らしている。
轟音は増し、やがてぐらぐらと部屋全体が揺れている事に気づく。支えの柱を失った地下はいつ崩れてもおかしくない。
貴方達はすぐに地上に逃げなければならない。
⇒「・地上階へ」へ
2.清人(弟)が同行していない(憑依状態が解除されている)
弟の名状し難い憑依者によるコラジンとの闘争が起こらない為、自力でコラジンをどうにかする必要がある。BEST・BAD END展開。
光り輝くエネルギー体は、朧げに瞬きながらも確実に実体を持ってそこに存在していた。膨れ上がる閃光が、まるで不格好な前脚を伸ばす獣の如く、その先端を突き出した。眩い光の塊が地下空間にそびえる支柱に触れた瞬間、激しい衝突音が鳴り響く。まるで重機に破壊されたかの様に、太い支柱が中央から真っ二つに折れて崩落してゆく。その破片が床に落下して土煙を巻き起こし、逸見清人の姿も見えなくなった。
轟音は増し、やがてぐらぐらと部屋全体が揺れている事に気づく。支えの柱を失った地下はいつ崩れてもおかしくない。
貴方達はすぐに地上に逃げなければならない。
⇒「・地上階へ」へ
・地上階へ
PLに危険を伝え、元来た階段から地上へ戻るよう誘導する。どう行動するかを制限する必要はないが、地下には他の出入り口はなく、またコラジンや名状し難い憑依者が暴れ回っている為探索者達が取れる行動はないに等しい。
地上階に戻った後も轟音は収まらず、足元から響く音からいつ発電所自体が破壊されるか分からないと確信できる。すぐにでもこの場を離れなければ危険であるとPLに伝えること。
この時に、何か対抗策を探すなどする場合は【目星】か【アイデア】を振らせる。
【目星orアイデア】1Fにある巨大なメイン発電機が目に留まる
古頼塵が強い電気に弱いという情報が既に出ていれば、発電機を動かして発生させる電力を一気に引き上げればスパークさせられるかもしれないとPLに伝える。ただし、発電機を正しく操作するには【電気修理】に成功する必要がある。
また、操作に成功するまで何度でも繰り返し技能を振る事が可能だが、一度にチャレンジできるのは1人のみで、3度失敗すると地下からコラジンが床を破壊して侵攻してくる為、敷地外へ避難する事を余儀なくされる。
この局面での行動の結果、及びこれまでの行動によってエンディングが確定する。
1.発電機を起動した場合
モニターに表示されたメーターの数値が一気に跳ね上がり、バチバチという激しいスパーク音、更には瞬く電流が発電機から迸るのが確認できる。次の瞬間、巨大な発電機は耳をつんざく様な轟音と共に、火花を散らして爆発を起こした。
目論見が上手く行ったかどうかを確かめる余裕もなく、貴方達は崩落寸前の発電所から全速力で逃げ出す。
貴方達が発電所の敷地から外へと飛び出した直後、背後で発電所の建物自体が巨大な爆発音と共に倒壊する。それに加えて、再び激しいスパークの様な音が鳴り響いた。振り返れば、崩壊した発電所から顔を出した巨大な光の集合体が、発電機から放出される電流に包まれ、一層激しく光を放っているのが見えた。そこからは生き物の悲鳴とも、地鳴りともつかないような奇妙で不快な轟音が鳴り響き、光は激しく輪郭を震わせながら徐々にその光の粒を散らしているようにも見える。まるで生き物が弱っているかのようだ。
⇒名状し難い憑依者がいる場合は「・脱出」へ
名状し難い憑依者がいない場合はエンディングとなる⇒13.エンディング参照
2.発電機を起動しなかった場合
(名状し難い憑依者がいる場合)
貴方達が発電所から飛び出してすぐに、発電所の建物自体が巨大な爆発音と共に倒壊する。その土煙の中から、夜空を照らすまばゆい光の集合体と、それに絡みつくようにする異形の触手の塊が遠目からも見て取れた。
それらは激しくぶつかり合い、争っていた。
崩れた発電所からも離れ、尚も暴れ続けるそれらの異形は、心なしか2つともが徐々に体積を増している様にすら見える。
(名状し難い憑依者がいない場合)
貴方達が発電所から飛び出してすぐに、発電所の建物自体が巨大な爆発音と共に倒壊する。その土煙の中から、夜空を照らすまばゆい光の集合体がむくりと体をもたげるのが遠目からも見て取れた。
崩れた発電所からも離れ、尚も暴れ続けるその異形は、心なしか徐々に体積を増している様にすら見える。
⇒「・脱出」へ
・脱出
崩落した発電所の様子に言葉を失っていると、不意に、海岸の方から豪雨にかき消されまいと張り上げた怒声が聞こえてきた。
「おーーーい!!あんたら!!無事かぁ!!」
初日に探索者達を島へと運んだ漁師が、大声を張り上げながら駆け寄って来る。最初に約束した離島日時前だったとしても、漁師は異常な天気の荒れに不安を感じ、船を走らせ三鷺島へと様子を見に来てくれている。その結果、発電所の爆発とそこから飛び出してきた探索者達を見つけると、漁師は大慌てで「こりゃ普通じゃねえ!いいか、今すぐここを離れるぞ!」と探索者達を連れて海岸につけた船へと押し込む。
船に乗り込んだ場合はそのまま三鷺島を脱出する。⇒13.エンディング参照
住宅地域を見たい、島民を助けたいなどの要望には、「馬鹿野郎!そんなことしてる暇あるか、死にてぇのか!」と聞く耳を持たない。どうしても島に残る場合は、漁師は探索者達を残して島を離れてしまう。BEST END以外でこの選択を行った場合、コラジンまたは名状し難い憑依者によって殺され、ロストとなる。⇒13.エンディング参照
島から脱出する折、PLが丹山るりかの安否について気にするなどした場合、以下のイベントを発生させる。
突如、探索者のスマートフォンに着信が入る。ディスプレイに表示された番号には見覚えがない。電話を取る場合、電話口の向こうから幼い少女の声が聞こえてくる。
『もしもし、〇〇さん。るりかだよ。丹山るりか』
無事を確認する問いかけなどをしても、丹山は笑うばかりで質問には答えない。その声は声音こそ幼いものの、無邪気な少女とはかけ離れた、どこか達観した様な、嘲笑する様な冷たい響きを孕んでいる。
『すごいね。島ひとつがこんなことになっちゃうなんて。たかが兄弟喧嘩から』
『君たちも良かったね。なんとかかんとか、命が無事でさ。それってとっても奇跡的なことだよ』
『あ、でも、島を出るまでは安心できないのかな。その船も、もしかしたら途中で沈んじゃうかもしれないしね。ふふっ。まあ、頑張って』
『また機会があれば、遊ぼうね』
最後の一言で少女の細く高い声音はぐにゃりと歪み、まるで再生速度を弄ったテープの様に、低く不自然な声色へと変化した。少女から老人まで、あらゆる老若男女の声を混ぜ合わせた様な不快な声音。通話が一方的に終了し、電話口からツーツーという無機質な音が鳴り響くばかりになっても、その震える様な笑い声だけがいつまでも脳裏にこびり付いていた。
【SANチェック】1/1D3
丹山るりかは一方的に話した後、通話を切ってしまう。同じ番号に再びかけ直した場合、直後であっても、『おかけになった番号は、現在使われておりません』と案内音声に繋がってしまう。
また、各エンディングで丹山るりかについて探索者及びPLが気に掛けた場合、『後から調べた所、三鷺島の島民名簿の中には「丹山るりか」という名前はなく、また湯島多恵の親戚にもその様な少女は居なかった』という情報を開示する。
コラジンを撃破したエンディングの場合、いずれのエンディングでも、失われていたPOWは数日の内に回復する。
◆BEST END:憑依状態を解除した上で発電機を起動
弟の憑依状態を解除した上で発電機を起動した場合のエンディング。
発電機によってコラジンを倒し、名状し難い憑依者の脅威も排除した最良の結末。
体積を巨大化させて蠢く光の集合体は、苦しむかのように輪郭をわななかせ、発電所から張り巡らされている送電線に向かって倒れ込んだ。その半実体的な表皮が送電線に接触すると同時に、あたりが激しい光に包まれる。耳をつんざくようなスパーク音と、夜空を白く照らすほどの火花。その一瞬の後に、発電所全体を大きな爆発が包み込んだ。高圧電流を孕んだ機器の数々が連鎖する様に爆発を起こし、みるみる内に施設全体が崩壊してゆく。ようやっと安全な場所まで離れた貴方達は、その爆発が収まってすっかり場が静寂に包まれるまで、茫然とそこで立ち尽くすよりほかなかった。
その後、島の異変を感じて三鷺島まで船を飛ばしてきた漁師によって、貴方達は本土へと無事に帰還した。発電所は大規模な爆発事故により崩壊したと処理されたようだ。大規模な事故ながら、何故か当日、職員も発電所におらず、奇跡的に島民の犠牲者は出なかったと報道される。
島を離れたすぐ後に、漁師を通じて逸見清人の弟から貴方達のもとへ連絡が入る。島は混乱に陥っているが、貴方達のお陰で犠牲を出さずに済んだとのことだ。また、兄を止めることに囚われるあまり危険な存在との関わりに足を踏み入れた事を告白し、そんな自分を救ってくれたことにも彼は感謝を示すだろう。
異常をきたしていた島民の認識なども徐々に回復すると考えられるが、当面はまだ影響が色濃いという。それを利用して、島民たちに清人の弟であった事実を伝え、今後は兄に代わって島の当主として島民たちと暮らして行くつもりだと彼は話す。
戸籍もない彼が今後生活していく事も、兄の死をいずれ島民に伝える事も、容易な事ではないだろう。しかし、少なくとも、彼は貴方達のお陰で漸く元の居場所で新しい人生を歩み始める。
SAN値報酬
生還した:1D10
コラジンを倒した:1D4
逸見清人の弟を救った:1D4
◆NORMAL END A:憑依状態を解除せず発電機を起動
弟の憑依状態を解除せずに発電機を起動した場合のエンディング。
発電機によってコラジンを倒すも、名状し難い憑依者によって島が崩壊する結末。
貴方達が船に乗り込むと、漁師はすぐに操縦席に飛び乗ってエンジンを掛けた。激しい唸りを上げて、小さな船はあっという間に最高速度に到達する。背後を振り返れば、徐々に小さくなる島の様子が見えた。
体積を巨大化させて蠢く光の集合体は、苦しむかのように輪郭をわななかせ、発電所から張り巡らされている送電線に向かって倒れ込んだ。その半実体的な表皮が送電線に接触すると同時に、あたりが激しい光に包まれる。耳をつんざくようなスパーク音と、夜空を白く照らすほどの火花。その一瞬の後に、発電所全体を大きな爆発が包み込むのが遠目に見える。
火花に包まれ悶える光の異形が徐々に崩れ落ち、見えなくなる。しかし、貴方達がその光景に安堵の息を漏らそうとしたその刹那。激しい閃光と煙の狭間から、幾重にも重なる巨大な触手が、噴き出す様に広がるのが視界の先に映った。
あの触手の異形は。これで本当に全て済んだのか。一抹の不安を抱く貴方達を乗せて、船は三鷺島から遠ざかってゆく。いつの間にか荒れ狂う波も収まり、島から離れた海洋は穏やかだった。漸く速度を緩める船の上で、貴方達は少なくとも、自身の身の危機が去った事を悟るのだった。
その後、発電所は大規模な爆発事故により崩壊したと処理されたようだ。悲惨な爆発事故を映す報道では、一方で、発電所を中心に島の半分ほどを覆う程の範囲が爆発事故だけでは説明がつかない程激しく地盤崩壊し、建物も酷く破壊されていた事実が疑問視されていた。
あの触手の化物が、そうなり果てた男がどこへ行ったのかは、誰にも分からない。逸見清人の弟は、島で遺体が見つかったという話も上がらず、誰にも目撃されぬまま跡形もなく姿を消してしまっていた。
貴方達が確かに見た、彼の体に宿っていたものが何なのか、それが本当に実在しているのか。それはもう、今となっては確かめるすべもない。
SAN値報酬
生還した:1D10
コラジンを倒した:1D4
◆NORMAL END B:憑依状態を解除せず発電機を起動しなかった
弟の憑依状態を解除せず、発電機を起動しなかった場合のエンディング。
発電機が未起動の為、名状し難い憑依者によってコラジンが倒される結末。
船に乗り込み振り返れば、ふたつの異形はみるみる内に膨れ上がり、体積を増していた。留まる事を知らないそれらは発電所から更に歩を進め、街の方へとすら及ぼうとしている。しかしそれを止めるすべはもはや、貴方達にはなかった。
船は荒波に揺られながら、最大速度で島を離れてゆく。徐々に小さくなるその景色の先で、明らかに、この世のものではない何かが、ひしめいている。それはまるで、小さな島一つがまるまる地獄と化したような光景だった。
徐々に遠ざかるその様子から目を離せぬまま、貴方達は放心の最中本島へと帰還したのであった。
翌日以降、三鷺島の名前は様々なメディアや雑誌を一時騒がせる事となる。
一夜にして島民が全員死亡し、小さな島が一つ、壊滅したのである。
酷く損傷している発電所の爆発事故が原因かとも言われていたが、それにしては奇妙な点がいくつもあった。しかし結局誰も、その小さな島で起きた恐ろしい真実に、辿り着く事は出来なかったのである。
そう、貴方達以外は。
あの壮絶な一夜の記憶は、いつまでも貴方達の脳裏に残り続けるだろう。
しかし、貴方達の行動の結果、被害は最小限にとどめられたのだ。その後暫くすれば世間も小さな離島の事など忘れ、それまで通りに日々が過ぎて行くだろう。
これで良い。そう言い聞かせ、あの恐ろしい光景を記憶の奥底へ封じ込めて、貴方達は自分の日常へと帰ってゆく。
SAN値報酬
生還した:1D10
◆BAD END:憑依状態を解除した上で発電機を起動しなかった
弟の憑依状態を解除した上で発電機を起動しなかった場合のエンディング。
発電機が未起動の上名状し難い憑依者もいない為、コラジンが復活する結末。
船に乗り込み振り返れば、巨大なプラズマの異形はみるみる内に膨れ上がり、体積を増していた。留まることのないそれは島から遠ざかる船からも十分に視認できる程だ。
それだけでなく、やがてそのプラズマ体は渦巻きながら、何か明確な輪郭を形成し始めている様に見えた。
島の森林を分けて高く突き出された頭部は、蛸の様な形に見える。その口元にある大量の触手が蠢くのが、離れた船上からもはっきり視界に入り、探索者達の背筋に不気味な悪寒を走らせる。それは今までに見た事のない、この世のものとは思えない化け物だった。いつの間にか光り輝くプラズマ体から鱗に覆われた濁った緑色の姿に変わったそれは、頭をもたげて恐ろしい唸り声を上げた。その悍ましい産声は海面を荒立て、船のエンジン音すらかき消して貴方達の耳にまではっきりと響く。
目覚めてしまった神を前に、貴方達に残された道はただただその悪夢から遠く、遠く離れ、安全な場所へ到達できると信じ船の手すりにしがみつくのみだった。
退治されなかったコラジンはクトゥルフの物理的な化身を形成する。その姿や能力は偉大なるクトゥルフそのものと全く同じものとなる。このエンディングに到達してしまった場合の結末はKPに委ねる。離島に出現したクトゥルフの化身は社会的な混乱と島一つの破壊をもたらした上で軍事組織等により撃退された事としても良いし、人間による退散は叶わず、世界全体が荒廃したクトゥルフの世界となり果てる滅亡エンドとしても良い。
探索者及びシナリオの世界線を生還、存続させる場合、SAN値報酬は他ENDと同様に生還による1D10か、KPの裁量でより少ない数値とするのが妥当であると考えられる。
◆BAD END:
BEST END以外で島に残った場合のロスト。
貴方達は息を切らし、必死に走っていた。崩壊する島に残り、それでもやり残したことを成す為に。
しかし、それがあまりに無謀であったと、すぐに思い知るだろう。
みるみる内に膨れ上がるふたつの異形は争う様に互いにぶつかり合いながら、触肢を伸ばして徐々に島全体を侵食してゆく。巨大な異形の先端に触れ、木々は楊枝の様に容易く折られ、地盤は粘土の様にえぐられた。とうとう住宅地域まで及んだそれらが、玩具のジオラマを崩すが如く、立ち並ぶ家屋を崩してゆく。
ふと目の前が暗くなった。それが豪雨と厚い雲の為だけではない事を悟って、顔を上げる。首を持ち上げる程上を見上げれば、そこにはもう間近まで迫る、巨大な異形の先端があった。それがまるで意思を持って自分を見ていると、貴方達は本能的に感じる。
次の瞬間、全身を包む不快な感触に、自分がそれに取り込まれたと理解する。続いて感じたのは、みしり、という体の内側から響く音と、全身を包む激痛だった。圧に耐えられずに体中の骨という骨が悲鳴を上げる。そして、ついに。
ぐちゃり。
初めて聞く、自分の体が潰れる音。それを最後に、貴方の意識は途切れた。
探索者ロスト
「鋭敏な二人」の呪文をず~~~~~~っと使いたいと思っていたので満足です。
地域伝承とか、邪神の復活とか、スタンダードなクトゥルフらしいシナリオを作りたくて試みた作品です。ちゃんとクトゥルフしてるかな…。
あと今回は画像を使った視覚的なギミックが使いたくて無理してへったくそな挿絵など入れる羽目になっています。ブログ記事はともかく、NPCの画像は絵心のある方は是非ご自身で差し替えて遊んでみてください…。
自分は「PLにとって気付くのが困難で、だけど後で聞いたり、もしシナリオ中にひらめけたらアッと声が出る様な一捻り」が好きなので、今回ももう一つのブログ記事、というトゥルーエンドへの道を用意してみました。テストプレイでは画像がもっとこまごましていた為気付いたPLはいませんでしたが、画像の要素を減らして文字を拡大したのでひらめき力のあるPLさんなら気付くかな…?
優秀なPLさん方、是非弟の方も救ってやってください。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
実際にプレイしてくださった方は、よろしければ是非アンケートにご協力ください。
シナリオページに掲載する難易度や目安時間などの参考にさせていただきます。